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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
305/873

302回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 107:嵐までの七日間(4-3)

 突然爆音が響き、僕らは音がした出入口の方を見た。そこには顔をすっぽりと黒い三角帽で隠した黒づくめの男たちが公民館の廃墟になだれ込み、モンスターの子供たちを捕まえようとしている光景があった。

「ちょっ、何事!?」

「詮索は後だ、連中ぶちのめさねえとまずいぞ!」

 先ほどまで和気あいあいとしていた場の雰囲気は騒然となり、悲鳴と怒声の飛び交う状況になった。僕は階段の手すりを滑り降り、その勢いをつけたまま手すりを蹴って体を浮かせると、子供の手を掴んで連れて行こうとする黒覆面男の胸にドロップキックをして吹っ飛ばした。

「みんな二階の中央、大部屋に集まれ!早く!!」

 リックが黒覆面男の背後に勢いよく迫り、その背中を駆け上がるとそのまま首に両足をかけて全身の反動を使って投げるティヘラを決め、大男を床に叩きつけながらそう叫ぶ。

「ティヘラ!?」

 思わず二度見する僕、さらにリックは自身に向かって突進してきた黒覆面男に向かって走り、黒覆面男が自身を掴もうとしたその腕を掴み、まるで逆上がりのように体を空中で真逆にしそのまま蛇のように黒覆面男の体を旋回したかと思うと、黒覆面男の首を左腕でホールドし後方に倒れこんで相手の頭部を地面に叩きつけるDDTを流れるように決めて見せた。


「何ぼーっとしてんの!そっち行ったよ!!」

 リックの戦いぶりに茫然としていた僕は彼の呼びかけではっと我に返り、迫ってきていた黒覆面男の拳を反射で下から上に拳ではね上げる、そこから繋げられる一番慣れた技、右ひじを相手の鳩尾に打ち込む里門頂肘を決めた。

「しまった」

 人間相手なのに急所を打ってしまった、殺してないか不安になったが黒覆面男はうめき声をあげながら地面を元気にのたうち回っていた。


「マックス!二階の部屋の守りお願い!」

「承知しました!」

 子供たちが二階の中央の部屋に駆け込み扉を閉め、その前にマックスが盾を構えて立ちはだかった。フルメイルに大盾を構えたマックスの重装甲をどう攻めたものかと、黒覆面男達が数人立ちすくんでいると、これ幸いと隙をついてドルフが三人拳で吹き飛ばし、リガーが二人足を切りつけ、ひるんだ隙にバク転しながらその二人の顎を左右の足で同時に蹴り飛ばした。

「んにゃぁ?騒がしいにゃぁ、もう少し寝かせてもらえんかにゃ」


 黒覆面男の一人が腕を上げると黒覆面男全員が彼を見て、彼が外に向けてそれを振ると一斉に退却し始めた。

「帰ってくれたのかな?」

 僕がそう呟くがその場の誰もが言葉を発しない。静寂、パチパチという音が聞こえ、そちらを見ると炎が公民館の柱を中心に燃えあがり、カーテンを焼き、火の手を広めているのが見えた。そこだけじゃない、この建物のいたるところから火が上がり始めていた。

「くそがッ!建物に火つけやがった!!」

「ドルフ、僕らで退路を作ろう。マックスとリックはみんなを連れて逃げて!」

 天上が崩れ落ち瓦礫でふさがれた入り口をドルフが蹴りで吹き飛ばすと、山刀と琥珀のダガーを手に僕が表に転がり出て周囲に黒覆面男達の姿がないか確認する。不幸中の幸い彼らは完全に撤退した後のようだった。

 その後僕らは子供たちを逃がすと、安全な場所に離れた。

 子供たちは茫然とした様子で焼け落ちていく公民館を眺め、泣き出す子供もいた。

 全員無事か顔を確認していると、一人いないことに気付く。

「キルシュ、キルシュがいない」

「なんだって!?」

「あいつはあの建物の中じゃない」

 そう言ったのは煤で真っ黒になりしょぼくれた様子のシバだった。彼は震えながら、目に涙を浮かべ僕らに言った。

「キルシュは黒覆面の連中に連れていかれちまった」

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