301回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 106:嵐までの七日間(4-2)
「ホットケーキ食べたい」
突然僕がそう言うと、ドルフが怪訝な顔をして僕を見た。
「なんだよいきなり」
「うーんこの間焼き菓子作ってみんなで食べたんだけど、あれからずっとホットケーキ食べたくてね」
ドルフの耳がピクリと立ち上がる。
「焼き菓子?俺の分は?」
「ごめん、取っとこうと思ったんだけどみんなの食欲が凄くて」
彼の耳がへにょんと下がった、テンションの上下がわかりやすいんだなと思って僕は少し笑う。
「ドルフも甘い物好きなの?」
「べっつに、べっつに好きじゃねえし。俺の分取っといてくれなくても全然気になんねーもん」
ケッと言いながら彼はふてくされた様子で雑に尻尾を振る。
僕らは朝の特訓の後作戦会議もかねてアジトで昼食をとっていた。
状況が状況なだけに質素なパンとスープだけの少し味けのない食事だ。
「戦いが終わったらホットケーキ作る材料だって手に入るようになるだろうし、そしたら今度はちゃんとドルフにもご馳走するね」
「おう、期待しないでおいてやるよ」
吐き捨てるように言いながらも彼の目はらんらんと輝いている、なんだか可愛くて撫でたくなったが、おそらくしらふの彼にそうしたら顔面に拳をいれられるのでやめておくことにした。
「なぁなぁ、ホットケーキってなんだ?この間の焼き菓子みたいなの?あれよりもっとうめえの?」
僕らの話を聞きつけた子供達が数人集まってきた。
「材料と手間がかかる分この間の焼き菓子よりもっと美味しいよ、全部終わったらみんなで食べようね」
「やったー!」
子供達は僕の言葉に大喜びしてみんなでホットケーキ!と連呼して叫び始めた。
「緊張感なくなるなぁここにいると」
そういうドルフにまぁまぁと言うと、僕はテーブルに地図を広げた。
「それで、現状どうなってる?」
「マックスが人員を確保してくれて、これでこちらの勢力は500になったよ。それにこのエリアには仕掛けを済ませた、沼地も使えるから使える手は増えると思う」
「人員については上々だな。だがそうなると武装の問題があるぜ、どういう連中が集まるかはしらねえが、モンスター相手の殺し合いにスキやクワじゃ話にならねえ」
「彼らなら戦力として期待できます。武装に関しての確保は今進めているところです」
ドルフの言葉にそう応えたマックス、ドルフは彼を値踏みするように全身を眺めた。
「あんたがディアナ公国の兵士さんか、知っての通り俺達はモンスターだが、いいのかい?」
「私はジョッシュを信じると決めました、彼が信頼する者になら私も命を預けましょう」
「迷いのない目で言いやがる、お前の人ったらしも板についてきたなジョッシュ」
「僕が?」
ドルフとマックスが笑う、その理由がわからず首をかしげつつも、僕は二人の関係が良好な事を内心嬉しく思った。




