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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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297回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 102:嵐までの七日間(3-7)

 僕は琥珀のダガーを眼前に構え、目を閉じて集中する。

 琥珀のダガーを通じて周囲の生き物たちの恐怖と戦慄の感覚が伝わってくる。みんなあの空間の裂け目から現れようとしている化け物に怯えている。

 心臓が早鐘をうち、裂かれた傷が鼓動に合わせてズキズキと痛む。僕は深呼吸して周囲の気配を探り、生命力の流れを操作し、奥の手を構築していく。


「ははっなにをしようと企んでるかは知らないが、こいつにはお前のオブジェクトのちゃちな木の槍なんて通用しないぜ!」


 琥珀のダガーの光が強くなり、金色の滴が生まれ地面に落ち、僕は目を開ける。

 辺り一面に無数の植物が生い茂り、それらが蕾をいくつも作っていく。

「リガー、聞こえる?体を動かすよ」

 僕はリガーの隣にしゃがみ込み彼にそう耳打ちすると、彼を背中に背負って立ち上がった。風向きが変わる。

「今だ!」

 僕は植物の蕾を一斉に咲かせた。

 

「なんだ?この花、何が狙いで……」

 セナの言葉が詰まり、僕は作戦の成功を確信した。彼は頭を抑えて立ちくらみしたかのようにふらつく。

「なんだこれ……クソ眠てえ、てめえ何しやがった」

 催眠効果のある花の種をここ一面に一斉に咲かせた。彼が眠気に襲われている間に距離を離し、リガーの死刃で道を絶てば僕らは逃げ切れる。

 僕は風上に向かって急いで走る。リガーの体が冷たい、嫌な予感を押し殺しながら、僕は走った。

「もう少し、もう少しだから、がんばってリガー」


「そこのお方、どうぞこちらへ」

 聞き慣れない声がして僕はあたりを見回す、誰の姿も見当たらなかった。それに沼からその声がしたような気がする。

「こちらです、今は私を信じて、どうかお早く」

 間違いない、その声は沼の中から聞こえた。どう考えたって怪しい、だけどその声に本当に僕らを助けようと必死な気持ちを感じて、僕はその声を信じて沼に足を踏み入れ、前に進んでいった。


「逃がさねえぞ!」

 僕がさっきまで走っていた道に火炎放射器の噴射のような炎が吹き付けられ、焼き払われた。巻き込まれた牛が悲鳴を上げて黒焦げの消し炭になって崩れ落ちていく。その炎は頭を断裂から出した化け物の口から吐かれた物のようだ。あの化け物には催眠花の効果はないようだった。

「もう少しです、諦めないで」

 沼の奥から聞こえる声に励まされ、僕は泥に足を取られながらも懸命に沼の中心に向かって進んだ。遠くで赤い光が見える、化け物が次のブレスの準備を整えている。その光が大きくなり、今まさに放たれようとしたそのとき。

「こちらにお連れします、息を止めてください」

 沼の声に従い息を止めると、僕の足を沼から這い出た手が掴み、僕らはそのままあっというまに沼の中に引きずり込まれ、間一髪再び放たれた化け物の火炎放射を回避した。

 安堵したい所だったが沼に沈み、高速で沼の底に引き込まれている途中の僕には呼吸もできず、あたりがどうなってるか見ることすらできず、ただリガーを離さないようにしっかり掴んで、二人で無事に脱出できることを祈ることしかできなかった。


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