295回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 100:嵐までの七日間(3-5)
僕の山刀が皮を裂き、肉を斬る生々しい感触が刃を通じて手に伝わってくる。この次に内蔵の感触になるのかと頭によぎり吐きそうになった。
「くそ……ッ」
僕は思わず山刀を途中で止めてしまった。その隙をついてセナのヤクザキックが僕の胸に当たり僕はその勢いで地面に転がった。肺に加わった衝撃で呼吸が難しく、焦りも合わさって僕はよろよろと立ち上がり、セナの追撃に備えて山刀を構える。
しかし僕の目に映ったのは攻撃のため僕に向かってくる彼の姿ではなかった。セナは自分の脇腹の傷を見つめ、それを指で触れて呆然と立ち尽くしていた。
「なんで殺さねえんだ」
その声はなにかに酷くショックを受けたといった様子でとても小さな物だった。
「僕には無理だ、人を殺すなんて」
僕のその言葉にセナは血走った目で僕を睨み付け叫ぶ。
「お情けなんてかけてんじゃねえ!これじゃ俺が弱いみたいじゃねえか!!」
彼の言葉が理解できず困惑していると、セナは僕と離れたまま猛然とした勢いで青竜刀を空に振り始めた。僕は彼の斬激の方向を見ながら山刀で次々に襲いかかる彼の見えざる刃を弾き、反らし、しのぎ続ける。しかし彼の手は加速を続け、次第に防御が間に合わず体中が切り刻まれ始めた。
「俺は強いんだ、誰よりも強くなってレオに認めてもらうんだ。
だからお前みたいな奴は邪魔なんだよ!!」
彼の気迫と勢いに圧倒されながら、僕は彼に自分と似たものを感じた。グレッグに相棒として認めてもらいたい僕と同じだ、そう思った瞬間、一瞬の意識の揺らぎを捉えたセナは突如こちらに急接近し、必殺の一撃を仕掛ける。とっさに蔦を四方から放ち青龍刀は止めたが、彼は捕らえられた青竜刀を軸にして体を浮かせて、左膝蹴りで山刀を握る僕の右手の甲を蹴り、続く右足の後ろ回し蹴りで僕の側頭部を狙う。間一髪右手でそれを受け止めたが、今の彼の動きで蔦が切り裂かれ自由になった青竜刀が僕の頭頂部に振り下ろされた。
間一髪山刀を青竜刀の前に出し直撃は免れたが、山刀ごと振り下ろされた青竜刀の打撃が僕の頭蓋に叩きつけられ、意識が飛びかける。
ダメだ、ここで気を失ったら。僕もリガーも殺されてしまう。
「殺さないと……殺される」
朦朧としながらそう呟くと、山刀の刀身に異界文字でカウンタースキル発動と光の文字が描かれるのが見えた。




