294回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 99:嵐までの七日間(3-4)
「あんたはターゲットじゃないから見逃してやろうと思ってたんだけど、刃向かってきたそっちが悪いんだぜ?」
そう言うと少年は青竜刀を空に投げ、それを蹴りで受け止め、全身を踊らせるように刀を乱舞させ再び手にそれを握ると僕を見て笑顔を見せる。
「それに俺いちどオブジェクト使いとやりあってみたかったんだよね」
そういうと彼は真剣な顔をして刀を眼前に構えた。
「闇の血統、虎嘯風殺のセナ。いくぜッ!」
セナは名乗りを上げると僕に向かって走りながら青竜刀を振った。まだ距離があり空振りかと思ったが、首筋に悪寒が走り僕は山刀を構え体を守った。
山刀に衝撃、耳をつんざくような金属音が響く。腰に痛みが走り目をそちらに向けると、切り裂かれたポーチとそこから零れていく植物の種、そして種を濡らす赤い僕の血が見えた。
血の気が引いた、しかしすぐにその攻撃の意図に気づく。
「囮だ」
セナを見る。彼の姿が消えていた。僕は瞬時に琥珀のダガーを起動し死角に槍を放つ。
「おっと」
背後でセナの声がした、手応えが浅い。僕は山刀をセナに向かって逆袈裟に振り上げる。
「いいね、だけど早さが足りないんだよなぁ」
セナは余裕の表情でそれを避けると僕の首をめがけて青竜刀を振り下ろす。僕は間一髪で彼との間に数本の木で壁を生み出し全力でその場を離れる、セナの行動範囲を制限するためにその場に次々と大木の柱を構築する。しかしこんなものは気休めでしかない。彼が僕を見つけたら一瞬で間合いを詰められ再び猛攻を受けてしまう。
「考えろ、考えるんだ。どうしたらあいつに勝てる」
その時僕は自分の体が半透明に透けていることに気付いた。柱を切り倒しながらセナが僕を探している。リガーを見ると彼は円月輪を握り、尻尾を左右に振って見せた。
位置を知る前に僕が見えなくなったセナは、やみくもに僕を探している。僕は彼の死刃の能力の正体を理解した。リガーが僕にくれたチャンスはきっと僕が逃げ延びるための物だ。
僕はリガーに向かって歩き出していたセナに向かって山刀を振った。攻撃を察知した彼は背中に目がついているかのようにその一撃を青龍刀で反らす。予想通り、僕は二の槍のために体裁きをする。
「ごめんリガー」
僕は君と生き延びる方にこのチャンスを使う。
セナがこちらに攻撃を仕掛ける一呼吸前に彼の脇腹に向かって二撃目の斬撃を放つ。セナの体が霞のように掻き消え、次の瞬間彼が現れたのは彼にとって地の利のある場所、そして彼は踏み込んで青龍刀で斬りかかってきた。
「それを待ってた!!」
僕はすかさず山刀を振り、僕の動きを補うタイミングでセナに対し地面から槍を放つ。一本目を避け、二本目が掠る、しかし攻撃途中の彼は回避を考えない。僕の斬撃がセナの体を捉えた。




