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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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293回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 98:嵐までの七日間(3-3)

 視界が開けてきて目の前に広がる光景に僕は呆然となった。

「沼?ここがサラマンダーの住んでる場所なの?」

 そこには見渡す限りの広大な沼地が広がっていた。

「さてにゃ、でも地図の通りで間違いはないにゃ」

 そういいながらリガーは森の方角を見据えて毛を逆立て、円月輪を構えた。

「道は絶ったんにゃが、なにかの気配が近づいてくるにゃ」

 武器を構えろにゃ!と言いながら彼は、森から来る影に牙を剥きだしフーッと唸り声を上げる。

 僕も山刀と琥珀のダガーを手に臨戦態勢を取る。意識を集中するとダガーは中心部分に淡い光の明滅を始めた。


 森の中から現れた人影は一つ、しかもそれは人間の少年だった。しかしその頭には虎のような耳、背後には縞模様の尻尾があり、全身に黒衣と漆黒の鎧を身にまとっていた。

「なぁ、そこのお前」

 彼は突然こちらに声をかけた。

「お前だよ猪おっさん共と戦ってたガキの方」

 僕は返事の代わりに構えを取って警戒する、少年の鎧は黒騎士のものと意匠が似ていた。つまり彼もニュクスを持っている可能性が高い。

「なんで殺さなかった?」

 僕の警戒など意にも介さないといった様子で少年は僕にそう問いかけながら、こちらに一歩一歩近づいてくる。

「最初のスライディングの途中に一匹はらわた切り裂いて、姿勢を変えながらもう一匹の延髄に一撃」

 そう言いながら彼は背負っていた鞘から青竜刀を抜刀する。

「足を取られたままの間抜けな二匹をオブジェクトで串刺しに、迫ってきた一匹は背中から心臓を貫いてやれば殺れたはずだ」


 少年が虚空に青竜刀を一閃する。

 シャランと何かが引き裂かれた音がした。それと同時に五つの球体が何もない空間から僕らに向かって弧を描いて飛び、足下に転がった。それは猪獣人達の生首だった。

「俺に対しては殺すつもりでやんねえと」

 瞬きした瞬間、少年は僕の眼前にいた。そして回し蹴りで僕の側頭部を捉え容赦なく蹴り抜く。僕の体はその蹴りの勢いで沼の上を何度も跳ね、巨大な朽ち木に衝突した。

「お前も首だけになっちまうぜ?」

「うっ……ぐぅう……」

 全身の痛みに歯を食いしばらないと気を失いそうだった。立ち上がろうとしたが手がなにかに引っかかって動かなかった。視線を手に向けると、ゆっくりと僕の手が沼に沈んでいくのが見えた。手だけじゃない、足や体も。もがけばもがくほど沈む速度は速まっていく。


「準備運動も出来たことだし相手して貰おうか。あんただよな、闇の血統(ダークブラッド)から死刃を盗んで逃げたリガーって」

 リガーは円月輪で空を裂く、暴風が吹き荒れリガーの姿が消え始めた。しかし彼は瞬時にリガーの懐に現れ、手にした青竜刀で胸を切り裂いた。第三者としても捉えきれない動き、予備動作すらなかったように見える。

「あー無理無理、道を殺したって俺の死刃には意味ないから。っていうかあんたの死刃にメタ張れるから俺が出張ってんだぜ?おっさん」

 彼はそう言うとリガーの腹部に青竜刀を突き立てる。リガーが呻き声を出し青竜刀を両手で掴むが、それを引き抜く前に少年は刃を突き立てたままリガーの体を上に持ち上げ、刃をえぐりこむ。

「うがぁああああ!!」

 リガーが叫び声を上げ全身を痙攣させている。

「すっげえな、モンスターのはずなのに完全に人間のおっさんにしかみえねえわ。死んでも人間のままなのかな」

 少年はそう言うと、試してみるかと呟きニヤリと笑う。

「やめろぉおおおお!!!」

 沼の中に沈んだ僕の手の中の琥珀のダガーが強烈な閃光を放ち、僕の体を巨大な根が沼から押し出すと、鞭のようにしなったそれは僕を少年とリガーの元へと吹き飛ばした。

「やめろにゃジョッシュ、お前さんじゃこいつの相手は無理にゃ」

 息も絶え絶えにリガーが言う、少年は青竜刀を上下にゆさぶりリガーの体に刃をさらに食い込ませ、リガーはゴボゴボと血の泡を吹き始めた。


 僕は琥珀のダガーを突き出し、少年に向かって無数の槍を地面から放つ。

「おっと」

 そう言いながらバックステップ三歩で五本かわし、そこからさらに速度を増して増加する槍を紙一重で避け、舌打ちをしながらリガーから青竜刀を引き抜くと、地面を蹴りきりもみ回転しながら空を舞い、青竜刀の刃で自身に迫る無数の槍を微塵に切り裂き、危なげなく着地する。

 リガーは引き抜く際の勢いで地面に太く赤い筋を残しながら転がり、うつ伏せになって止まった。彼の体の下から血が止めどなく広がっていく、早く手当をしないと命が危ない。


 地面に滑り込むように着地しながら、僕は背にリガー眼前に少年を捉え彼を睨み付ける。殺すつもりでやらないとお前も首だけになる、彼の言葉が頭に反芻する。選択の余地はない、僕は両手の武器を強く握りしめた。


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