292回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 97:嵐までの七日間(3-2)
威勢良く飛び込んでみたものの、近づくにつれて猪獣人の筋骨隆々、巨人のような体格。すっごい怖い!!
「やるしかないでしょ!!」
僕はまだ状況を理解できず戸惑っている獣人達の足にダガーを使ってツタを絡ませ動きを封じようとした。かかったのは三人、残り二人はすぐに僕に気づいて雄叫びを上げながら突進してきた。猪二人の進路から攻撃の衝突点を予測して、僕はタイミングを合わせて二人の下をスライディングですり抜け、獣人達は味方同士ぶつかりあって吹き飛ばされていった。
「あんなの食らったらぺしゃんこだ……ってそれどころじゃない、僕が引き受けますから、逃げて!」
僕はツタを引きちぎりこちらに向かいつつある猪獣人と向かい合いながら、背後にいるイモリ獣人の親子に叫んだ。彼らは戸惑い、すぐには動けない様子だった。時間を稼ぐしかない。
「僕に力を貸して、グレッグ」
グレッグから貰った彼の物とおそろいの山刀を握りしめ、僕は勇気を奮い立たせ猪獣人に立ち向かう。猪獣人腰につけていた小手のような武器を拳に装着し、こちらにそれを全力で振るってきた。
空気がビリビリと震撼し風が裂かれる音がする、殺意の圧力はこちらの死を確信しているそれだ、僕は持てる力の限りでその攻撃を交わす。瞬間、風圧だけで僕の服の一部が千切れ飛び、僕の横にあった大木がナックルに突いた巨大な牙にえぐり取られて倒れた。
血の気が引く、足が恐怖ですくむ、本気で自分を殺しにきている相手の迫力に僕は怖じ気づいていた。
「ぼーっとしてんじゃないにゃ!右にゃ右!」
リガーの声に我に返り僕は右を見た、そこには再び僕に向かって突進をしかけ十分な加速を得た猪獣人の姿があった。
「飛べにゃジョッシュ!!」
彼の声に従い地面を蹴る。リガーが投げた数個の黒い球体が猪獣人の顔で弾み、強い光を放って爆発した。猪獣人は驚愕の声を上げ、目を押さえながら姿勢を崩し、僕は空を跳びながら猪獣人の背中を叩いてその攻撃を回避した。
「こっち!走れ、距離を取るにゃ!!」
リガーは木から飛び降りると、そのふくよかな体からは信じられない身軽さで連続バク転しながら遠ざかっていく。足下に木の根や草があって走りにくかったが僕は必死に走り彼になんとか追いつく。
「相手見てから考えろよにゃ。盗賊のおいらと軽装備のお前さんじゃ、攻撃が軽すぎてあの重量級数人のグループにはどうしたって相性悪いにゃ!」
「どうしたらいい?」
「お前さんの無茶のおかげであの親子は逃げられたみたいだしにゃ。後はなんとかしておいら達も逃げるしかないにゃ」
こちらに向かって一斉に迫りつつあった猪獣人達に向かってリガーはまた黒い球体をいくつか投げつける。その手にはかかるかと猪獣人達が目を庇いながら球体をナックルの牙で払うが、炸裂した球体は今度は黒い粉をまき散らしあたりを黒い煙で包み始めた。
「煙幕か、忍者みたい」
「暢気なこと行ってる場合じゃないにゃ!」
そう言って地面をウサギのように飛び跳ねながら走り出したリガーの後を追って走る。彼の向かっている方角は僕らが元々目指している場所、サラマンダーのテリトリーの方角だった。




