291回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 96:嵐までの七日間(3)
「二人……二人かぁ……にゃぁ」
しょんぼりしながら歩いているリガーの言葉遣いに、語尾ににゃをつけてるのは本人のキャラ作りなのではと疑問を抱きながらも僕らはサラマンダーのテリトリーに向かって歩いていた。ブロードへインの都市から徒歩で5時間ほどの距離にあったが、サラマンダーを刺激するのは危険という事で僕らはあえて徒歩で向かう事に。もちろんリガーは反対したけれど、無理に連れてきた結果このテンションの低さである。
「ごめんねリガー、でも君がいるといざって時に助かるから」
「親切なんてするもんじゃないにゃ、すっかりあてにされちまったにゃ」
ぷーぷーと不満をたれているリガーだが、頭を撫でると尻尾を高く上げてゆっくり左右に振りながら喉を鳴らすのが面白い。やめろと彼は言うけれど、逃げたり手で払おうとしないあたりまんざらでもなさそうだった。正直猫みたいで可愛いと思う。
森の中、もう一時間歩けば地図に記載された場所にたどり着く距離にやってきた時、リガーがなにかの音を聞き僕を片手で制止し、二人で近くの大岩に姿を潜めた。
リガーがあたりを伺い、僕の肩を静かに叩くと頭を使ってある方向を見るように指示した。そこには鎧姿の猪のような顔をしたモンスターが5人、そしてイモリのような姿の民族衣装のような服を身にまとった親子がモンスターに囲まれる形でそこにいた。
「斥候って奴?」
「そうみたいだにゃ、戦闘が近いってドルフの話も信憑性があるって事にゃ、残念……」
ため息をつきながらもリガーは気を取り直し真剣な様子であたりを伺い始めた。やるべき事はちゃんとやるあたり意外とリガーって生真面目だよなと思う。
「ん、幸いあの親子に注意が行ってるから、こっちに迂回すれば気づかれずにやり過ごせそうだにゃ」
「うん、わかった。リガーはそうして」
リガーは岩から出て行こうとする僕の肩を無言で掴み、僕の体を無理矢理引き戻すと、大声が出せない代わりにやかましい感じの表情で馬鹿かお前は!と僕を罵った。
「どうしてお前さんはそう無鉄砲な事をしれっとやろうとするかにゃぁ」
「だってほっとけないし」
口をとがらせながら僕はポーチに手を入れる。
「あ」
僕の手を見てリガーが声を出すと同時に、モンスター達の叫び声がした。琥珀のダガーを使い地面からいくつか巨大な木の杭を出現させ、親子とモンスターの間に壁を作ったのだ。
「それじゃ、あとよろしく!!」
リガーがショックで固まっている隙に彼の手を抜けて、僕は山刀を引き抜きながらモンスター達の群れに向かって走り出した。




