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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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289回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 94:嵐までの七日間(2-4)


「兵士長なんてご立派な役職について、俺も昔は使命だなんだとあんたみたいにうつつを抜かしてたもんさ。それで息子を自分の生き方に巻き込んでもまだ気づきやしなかった、それが馬鹿な生き方だったって事にな」

 元締めは安物のたばこに火をつけ、両手をポケットに入れたまま木箱の山を下り始めた。

「あいつは俺にはもったいない出来た息子でな。俺なんかに憧れて、兵士になって。ある戦いで仲間を庇って死んじまった」

 そう言って彼はマックスの目の前に立つ、その目には涙の涸れた悲哀の色があった。

「そのときに理解しちまったのさ。綺麗事のために命なんか張ったって、後に残された者には悲しみと後悔しか残らねえってな。だからあの領主の誘いに乗っちまった」

 彼はばつの悪そうな顔をして紫煙をくゆらせる、マックスがそうしたように、彼もマックスの目をじっと見つめ、心のうちを読もうとしているようだった。


「部隊は解散、お役御免になった俺たちは手切れ金を元手に気ままな裏家業を始めたってわけさ。それなりに楽しくやってた所にあんたがやってきた」

 元締めはマックスの肩を掴むと少し怒気のこもった声を出した。

「そして事もあろうにあんたは俺の女房を助けちまった。すっかりふぬけて足がすくんでた俺の目の前で、だ」


「そこで気づかされちまった、ダーマを守るのは俺であるべきだったってな。悔しくて悔しくて、なにより自分が情けなくてな、やっぱり自分の大切なものは自分で守りてえ、そう思った」

 実はな、そう言うと彼はその場に集まった悪漢達を紹介するように両手を広げて見せた。

「ここにいる連中みんな同じ気持ちなんだ」

 そうだろお前ら!そう元締めが問うと、男達は威勢良くおお!と雄叫びをあげた。


「貴方方ははじめから?」

「まぁお前さんの覚悟のほどを見せて貰わにゃ納得できねえって事で、ちいとばかり回りくどい事はさせて貰ったけどよ」

 マックスが頭に手を当てて首を横に振ると、その様子を見て元締めはカラカラと笑い、マックスに指を二本立てて見せた。

「二百だ、必ずかき集めてやる。ひとまずこれで足りるか兄ちゃん」

「ありがとう、けして貴方方に後悔はさせない」

「それとな」

 と一声言うと元締めはマックスのそばに駆け寄り、小声で耳打ちする。

「さっきの金は報酬って事で俺らで山分けしちまってもかまわねえよな?」

「もちろんだ」

 そういってマックスは笑った。


 マックスがアジトに戻ってくるとなにやら中が騒がしい、扉を開けてみると子供達が騒ぎながらなにかを嬉しそうに頬張っている。そして文字通り積み上がって人の山になっている場所に向かうと、その中心ではジョッシュがなにやら料理をしていた。

「ジョッシュ、それは?」

「あ!お帰りマックス!ダーマさんから余った芋がたくさん貰えたから、すりつぶして茹でて漉して煮詰めて砂糖を作ってみたんだ。それを使って焼き菓子をいろいろ作ってみたんだけど、よかったらマックスも食べてみて!」

 と焼き上がりほやほやの焼き菓子をにっこり取り出したジョッシュの顔が、マックスのボロボロな姿を見て青くなる。

「酷い怪我だ!」

「ああ、これは大したことありません」

 そう言ってマックスはジョッシュの手にした鉄板から焼き菓子を一つ取ると、口に運んだ。香ばしく口溶けよく、なにより優しい甘さが疲れた彼の五臓六腑に染み渡るようだった。

「これ凄く美味しいです」

「でしょ!?たくさんあるからどんどん食べてね!あと薬箱持ってくるから、そこに座って!」

「あ、でもその前に報告したいことが……」

 いいからいいからとジョッシュに押され、マックスは椅子に座らされてしまった。その瞬間突然緊張の糸が切れて、彼の全身が鉛のように重くなり、マックスは襲ってきた眠気に目を開けていられなくなってしまった。

 薄れゆく意識の中、自分のために一生懸命に走り回るジョッシュの姿を見つめながら、暖かな満足感に包まれマックスは眠りに落ちるのだった。


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