288回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 93:嵐までの七日間(2-3)
「オーケーオーケー、降参だ。あんたの強さはよくわかった」
「人員の供出を願う」
「血走った目でこっち見るのやめろよな、ところで一つ質問いいか?」
「金ならある」
機械的にそう言うとマックスは金貨の詰まった革袋を投げて渡す。
「おっほぅこいつは豪気だねぇ、しかしねあんた」
物陰から一斉に覆面をかぶった新手の悪漢達が姿を現した。その数は二十、今のマックスが相手にするには多すぎる数と言えた。
「この状況から無事に帰れると思ってねえよな?」
元締めのその言葉に対してマックスは盾を地面に打ち鳴らし、臨戦態勢をとる。
「交渉に応じるまで何度でも繰り返すだけだ」
元締めはマックスのその言葉にあきれたといった様子で首を横に振った。
「まだやる気かよ、なんであんたほどの男があんなガキにそこまで肩入れするんだ?」
ジョッシュの事を聞かれ、マックスはあっけにとられながらも口を開く。
「彼は同胞の為になにもできず、ただ諦めて帰ろうとしていた自分に、できることがあると教えてくれた。それにこんな自分の事を友だとすら言ってくれた。自分は彼のしてくれた事に対して報いたいと、そうすべきだと決意しただけだ」
「それで命がけかよ、たったそれっぽっちの事で」
元締めはそう言うと大笑いをし始めた。悪漢達はじわりじわりとマックスの死角を中心にして彼の周囲を包囲し、距離を詰めている。建物の上や荷物の上に控えたボウガンを装備した男達も矢をつがえ、マックスに対する狙いをつけ終わった。
こんな所で終わるわけにはいかない、ジョッシュに必ず可能性の糸口を繋ぐのだ。マックスは心の中でそう自分を奮起させ、次の戦いの為の力をため始めた。
「あーやめだやめだ、てめえらそいつに手出すんじゃねえぞ。あと兵士さん、あんたもこれ以上俺の子分共を痛めつけるのはなしにしてくれや」
マックスが元締めの方を見ると、彼は自身の覆面を取り、その素顔をマックスに晒した。そこには酒場の女主人ダーマの飲んだくれの亭主の顔があった。
「貴方はあのときの」
「おめえらも面見せてやんな」
「え!?お頭正気ですか?」
がやがやと悪漢達からどよめきが上がる。
「うるっせぇ!俺に盾突こうってのか?あぁん!?」
元締めが子分達を恫喝すると、彼らもしぶしぶ覆面を取り始めた。悪漢のほとんどがダーマの酒場で見かけた顔ぶれだった。
「とまぁこれが俺たちの正体、元ブロードへイン所属対魔兵団って訳だ」
今は落ちぶれてギャングやってんだけどな、とそう付け加えて彼は笑った。




