287回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 92:嵐までの七日間(2-2)
その晩、ブロードへインの倉庫エリアでは騒動が起きていた。
ブロードへインで悪さを働いているならず者のたまり場を片っ端からマックスが襲撃し、潰して回っていたのだ。
「てめえか、俺たちのシマ荒らして回ってるってふざけた野郎は」
積み上がった木箱の上にがたいのいい覆面男が現れた、その服飾や威風堂々とした様子、マックスはようやく自分の狙いの男が来たと確信した。
雄叫びを上げマックスに襲いかかってきた覆面の悪漢を盾の一振りでなぎ払い、大きな声で彼は男に向かって叫ぶ。
「貴公がこの都市の悪党共の元締めか!」
その大声に周囲の悪漢達は耳を塞ぐ。
「おうおう威勢のいい事で、おうともよ、俺がこいつら仕切ってる元締め、この都市一番の悪党さ」
男はそう言うとにやりと笑う。
「悪党を退治して領主に取り入ろうって魂胆か?ええ?ディアナ公国の兵士さんよ」
その言葉は暗にディアナ公国兵に対する挑発の意味が含まれている、それに気づきつつもマックスは冷静さを保ち、隙を狙おうと襲いかかってきた背後の男の棍棒をしゃがんで交わし、その先端を盾の先で受け止め、自身の棍棒の衝撃で男がしびれた隙を突いて、その鳩尾を裏肘で深くえぐり混む。
「げぇっ……ぼぉ」
胃液を吐き出しながら悪漢の体は宙に浮き、そのまま勢いよく地面を転がっていった。
「自分の目的は交渉だ、貴公に人員の供出を依頼したい」
「てめえ馬鹿か、まさか俺の面拝むために、俺の子分を片っ端から蹴散らしてたってのかよ」
「時間がないのでな、荒っぽいが確実な方法で行かせて貰った」
覆面の男は大笑いする。彼以外の悪漢はマックスの言葉に激高し、舐めるんじゃねえぞ!と叫びながら一斉に彼に襲いかかる。男はお手並み拝見と呟き腕を組んだ。
マックスは走り込んできた一番手前の三人に対処するため、前転して彼らの足下に滑り込み、盾をその足下をすくう形で滑り込ませながら回転させ三人同時に吹き飛ばす。
少し距離のある場所からボウガンに矢をつがえる男達の姿を横目で確認すると、左から斬りかかってきた男の剣を斜めに構えた盾で受け流し、背後からの槍による突きを上半身を反らして避けると、肘と膝で槍の腹を捉えてへし折って、マックスは壁のように積みあがった木箱で壁走りし剣を持った男の後頭部に膝を入れ、槍を持っていた男が身構える隙を与えず回し蹴りで側頭部を蹴り飛ばした。
木箱の上に座した男がマックスの戦い様を見てヒュウと口笛を吹き、片手を下ろす。その合図に合わせてマックスを取り囲んでいた男達が一斉にボウガンの矢を放った。
矢が放たれると同時に、前方に盾を構えたままマックスが猛然と突進する。矢は盾で弾かれ、マックスの動きによって狙いがはずれて空を切って消えた。
「同士討ちはごめんだよな」
悪漢の耳元でそう呟くと、マックスの足払いでその男は宙で三回転周り地面に落ちる。すかさず放たれた矢を交わすためにマックスは次の悪漢の元へ、鋼鉄の鎧を身にまとっているとは思えないその動きに圧倒されている間にマックスが拳で殴る要領で突き出した盾の先端が男の腹をえぐり吹き飛ばし、盾の慣性を使いマックスはさらに飛来した矢をはじき落とし、宙を飛び、装備品の全重量の乗った蹴りをボウガンの持ち主の延髄に食らわせ着地する。
「それじゃこいつはどうだ?」
元締めがそう言うと、周囲の積み上げられた木箱が猛烈な勢いで吹き飛び始め、粉塵の中から鋼鉄の鎧に身を固めた巨大な金棒を持った大男がうなり声を上げながらマックスに襲いかかってきた。
「こいつの攻撃を受けたらさすがに自慢のその盾もただじゃすまねえぞ」
元締めの言うとおりまともに攻撃を受けたら盾どころかマックスも致命傷を負いかねない。二発軌道をずらす形で斜めに受けただけで、すでにマックスの腕にしびれが発生し始めていた。それに相手の重装甲、盾で殴ったくらいではびくともしない。隙間や関節を狙って打撃を与えてもはじき返されてしまった。
「それならば」
マックスは盾をまっすぐに構え、大男を迎え撃つ構えをとる。
「馬鹿め!捨て鉢になったか?やれ、ゴライアス!!」
ゴアッとまるでオークのような人間離れした叫びを上げながら、ゴライアスは猛然とマックスに襲いかかってきた。アクセル全開のトラックに対して盾一つで挑むような状態にありながらも、マックスは身じろぎ一つなく、ただ呼吸を整え、地面を踏みしめなにかしらの型のような構えをとる。そしてゴライアスの金棒がマックスの盾に衝突する。
「!?」
次の瞬間そこにあったのはゴライアスの手から吹き飛ばされた金棒が宙を回転する様子だった。
「なんだぁ?どうなってやがる」
ゴライアスが金棒を持っていた手の指が何本が折れていた。対してマックスの盾には傷一つない。マックスの眼光がゴライアスを挑発する、もう一度仕掛けてみろ、と。
大地を揺るがす怒りの咆哮をあげてゴライアスが猛然とマックスに向かっていく。
マックスは静かに深く呼吸をし、地面を足で捉えると、ゴライアスの頭突きが衝突する瞬間に合わせて盾の裏からゴライアスに向かって拳を放ちながら叫ぶ。
「これがディアナ公国兵の誇りだ!!」
ゴライアスは勢いよく上半身を仰け反らし、ひととき静止すると、眉間から血を流し白目を剥き、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
マックスは拳から血を流し、頭から流れ出た血で片目を塞がれながらも、闘志さめやらぬ様相で元締めを見据えていた。




