285回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 90:嵐までの七日間(1)
「ここらへんかな?」
僕は街から少し離れた小高い丘の上にやってくると、馬から下り、地図と地形を確認する。混沌渦から放射されるこの世界における太陽光のようなものの輝きは強くなってきていて、もうじき昼といった様子だ。
僕はポーチから琥珀のダガーを取り出し、眼前に掲げ目を閉じる。
ダガーから小さな光の粒子があふれ始め、ダガーの中心の光も胎動するようにその強くなっていくのを感じた。そしてその力の奔流がダガーから零れ、金色の滴となって地面に染み込む。土の上に落ちたのに水の滴が湖に跳ねるような音、そしてかすかな波紋が広がって、滴を中心に草花が茂り始めた。
「これでよし、と」
ポーチにダガーをしまおうとした僕は、近くにある草を見つけ、その種もついでに麻袋に入れて回収した。
『昨晩はずいぶん大きな事言ってたけれど、あてはあるのかい?』
パットがいかにも疑わしいといった様子で僕に尋ねた。
「痛いところついてくるなぁ」
まいったねこりゃと頭を掻く僕にパットはあきれたように続ける。
『君には現実的な思考をする仲間が必要だよ、正直僕だってリガーの意見に賛成だったんだ』
「まぁなんとかなるさ」
そういって僕は馬にまたがり、地図を確認しながら口笛を吹いた。
『牧歌的なメロディだね、この世界では聞いたことのない曲だ』
「僕が前にいた世界の有名な曲だよ、女神様がなんとかなる気にするなって繰り返すポジティブな歌さ」
『やれやれ、暢気な女神様もいたもんだ。早く回らないと今日中に仕掛けきれないよ』
「おっけー!それじゃ次行こうか!」
僕の声と手綱に答えるように馬も嘶きながら立ち上がり、僕らは次の目的地へと向かった。




