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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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283回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 88:胸に抱くべき希望の形(4)

「おいらも賛成だにゃー」

 そう言ってリガーもそこに現れた。

「おいら達がここにいても場を混乱させるだけだしにゃ」

「それにお前、人間殺せねえだろ」

 そこがリガーとドルフにとっての本音の部分のようだ、痛いところを突かれて僕は内心ギクリとした。

「それどころか下手するとモンスターすら相手に戦うの躊躇すんじゃねえの?」

「あーそれはおいらがさっき見てたから保証するにゃ」

「あそこにいたの!?見てないで助けてくれたら良かったのに」

 抗議する僕にリガーは指を立てて左右に振り、いつもはにっこりと閉じた目を片方開いて僕を見た。

「ジョッシュさんよ、おみゃあさんは自分にとっての都合の良さと、他人にとっての都合の良さは別物だって事はちゃんと理解できてるのかにゃ。モンスターの子供達しかり、この都市の住民しかり、自分が干渉したことで相手の大切なことを根本的に歪めてしまう事だってあるんだにゃ。そうなった時、おみゃあさんは他人から一生恨まれる覚悟はちゃんとあるのかにゃ?」


 その言葉の裏の意図に僕は怯みそうになった。 だけどその気持ちを堪えて彼の目をまっすぐ見据える、ここで引くわけにはいけない。

「目的の為にリックやあの子供達を見殺しにしなきゃならないかもしれない。あいつらに関わるってそういう事だぜ」


「だけど僕らが手を引いたらこの街の人が犠牲になる。

 リック達を救うか、街の人たちを救うかどちらかしかない。そういう事でしょう?」

「魔王軍の連中、この都市を落とすために七獣将の一人を連れてきやがった。どうあがいたって勝てやしねえよ。それどころか巻き添え食って死ぬかもしれねえ」


 グレッグを救うために僕はここで死ぬわけにはいかない、ドルフもマックスもリガーも、誰にもいなくなって欲しくない。僕の正直な気持ちをドルフはよく見透かしているようだった。


「魔王軍の連中がオブジェクトを回収してこの地域の混沌浸食も収束するはずだ。

 ここにいるモンスターの子供達にとってはそれが一番いい結末かもしれない」

 そういってドルフは僕の肩を掴む。

「お前の中にはたしかに隊長の横に並び立てる力が眠ってる。それどころかもっとすげえ事ができるかもしれねぇ。でもよそれを証明するために早死にしてたら意味ねえだろ」

 両肩を掴み、真剣な目で僕の目を見る。

「もっと普通に、誰かに守られながら平和に生きてちゃいけねえのか。

 それにもしこの騒動でお前が死んで、悲しむ人がいるなら…そのことだってお前は考えるべきなんだぜ」

 

 その言葉に僕がいなくなった後のグレッグの事を考えた、彼は僕が死んだと聞いたら泣くだろうか。でも僕にとって今向き合うべきなのは感傷ではない。ドルフの手を掴み、力一杯握りしめる。

「僕ってこう見えて後悔を後に引きずるタイプでね。

 今やれることがあるのにやらなかったら、何度だって今日のことを思い出しては後悔することになる」

 そう言いながら彼の手を僕の肩から離すと、僕は彼に笑いかけた。

「そんな生き方するくらいなら、やれる事はちゃんとやっておきたいんだよ」

「そのために大切な何かを失ったり、誰かに恨まれるとしてもか」

「受け入れるよ、それができないなら誰かに関わる資格なんてないものね」


 僕らの様子を見てリガーがわざとらしく大きなため息をついた。

「交渉決裂って感じだにゃ、とほほ。ジョッシュが帰るならおいらも帰れたのににゃー」


「前に隊長に言われたことを思い出したよ。戦場において心の支えにするための希望の形はなるべく小さい方がいい。楽天的すぎると失望するし、悲観的過ぎると力が出ない、だから必ず叶うようなささやかな夢を抱けってさ」

 ドルフも観念したといったように肩の力を抜き、腰に手をやると僕を見つめた。

「わかった、協力してやる。それが望みで俺を呼んだんだろ?」

「命がけになるよ、それでもいいの?」

「お前には借りがあるんだが、これで貸し借りなしにできるなら安いもんさ」

 そう言ってドルフは胸元をまさぐり小さなコンパクトのような物を取り出し、ボタンを押して棘を出した。

「本当は隊長のがいいんだがなぁ……、お前で我慢してやるか」

 残念そうな顔をしながら彼はそれを僕に差し出した、

「この器一杯分お前の血をよこしな」

「僕にかける呪いか何かにでも使うつもりでは?」

「違うわ!まぁ……あれだ、モンスター同士の儀礼みたいなもんがあってな、それに使う。いいからさっさとよこしやがれ」

 なぜか照れたような顔をしながら彼はずいっと僕の胸元にコンパクトを突きつける。

「そっか、わかった」

 僕が棘に親指を突き刺すと、どういう仕掛けなのかコンパクトが僕の指から血を吸い上げ、あっという間にコンパクトの中が僕の血で満たされ、隙間から赤い光が見えた。


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