表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
285/873

282回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 87:胸に抱くべき希望の形(3)

 犬笛の音に反応したのか、都市から少し離れた所から狼の遠吠えが聞こえてきた。

 それは輪唱のように少しずつ遠く、狼伝いに遠吠えのリレーがつなげられていくようだった。

「なにかの伝令なのかな」

「おうともさ」

「うわ!?」

 僕は突然背後の草むらから人の声がして驚いて尻餅をついた。

「なんだよ、俺だよ俺」

 草をかき分けながらまるで闇から這い出るかのように、ドルフが姿を現した。


「ドルフ!まさかついてきてくれてたの?」

「はぁ!?ば、馬鹿野郎お前、たまたまここら辺通りかかっただけだよぉ……」

 勘違いするなよなと、そう言いながらなぜか彼は目を泳がせ顔を真っ赤にして頬を掻く。その尻尾はパタパタと小気味の良い音を出しながら振られていた。

「ほんとかな?」

 僕は笑顔を浮かべながら、ドルフに顔を近づける。彼は目を合わせようとせず、どこか慌てた様子で僕に手を突き出した。

「やめろぉ、それよりなんだ、用事があったから呼んだんだろ?ほら、早く言えよ」

「ちぇっ逃げられちゃった、残念」

 僕は指を鳴らすとふざけるのをやめて、彼をじっと見た。

「大罪魔法って知ってる?その使い手のモンスターがこの都市にいるんだ」

「大罪魔法だと?なんでそんなもん使える奴がこんな場所にいんだよ、ありえねえぞ」

「そうなの?」

「俺たちモンスターの中で一番偉いのは魔王であるヴァールダント様だけどよ、その次に偉いのが七獣将って呼ばれてる連中でな。ガットの奴もその一人なんだが、そいつらだけが使える魔法が大罪魔法って呼ばれる、一人で軍隊ですら相手にできるような凶悪な魔法なんだ」

 僕はガットが使って見せたあの無数の亡者を呼び出す魔法を脳裏に蘇らせた、もしかするとあれも大罪魔法の一つだったのかもしれない。

「すぐそばの建物にいる孤児の一人なんだ、でもキルシュの使った魔法はガットが使っていた魔法とどこか違った雰囲気だったよ」

「大罪魔法は七種類あってな、ガットのは暴食、そのキルシュって奴がどんな魔法かはしらないが、抱えてる業と同じ魔法が発現するって聞いたことがある。もし子供なら不完全な形で魔法が暴発してるだけかもしんねえしな」

 抱えている業、キルシュの目が見えないこととなにか関係があるんだろうか。


「しかしお前ぇの話が本当ならこの状況の裏が見えてきたかもしんねぇ」

「モンスターの中での勢力争いの道具として、将来七獣将になる子を抑えるのがこの都市を狙う本当の目的って事?」

「察しがいいじゃねえか、あともう一つ。この都市に閉じ込められてるっていう孤児達はどこかから避難してきたわけじゃなく、何者かにここにさらわれてきた人質なのかもしれねえ。この都市が狙われることになったのは子供達を救い出すために村人達が決起したのが発端だってわかってな」

「一体誰がそんなこと」

 僕はそう口にした瞬間、脳裏にリックの憂鬱そうな表情と、彼の横に浮かぶ黒い肉片の事がよぎった。


「どうしたよ神妙そうな顔しやがって」

「ねぇドルフ」

「あん?」

「ドルフって僕のことどう思う?好き?嫌い?」

「はぁ?何言ってんだよ、……嫌いにきまってんだろ、お前なんて」

「え……?本当に?」

「おい、なんで泣きそうな顔してんだよ。いきなりなんなんだよ」

 そう言ってドルフは耳を伏せうろたえてわたふたしはじめた。

「ドルフに嫌われてるのショックでつい……」

 その言葉にドルフは目を丸くし、全身の毛を逆立て、なんともいえない奇妙な表情を浮かべた。

「そっかぁ、お前は俺に嫌われてるとショックなのか。そっかぁ……、へへへ」

 そういうと彼は僕の頬を拭って笑顔を見せた。

「それじゃしょうがねえなぁ、嫌いは取り下げてやるからしょぼくれた顔するのやめろよな。らしくもねえ」

 その時の彼の顔は妙に優しくて暖かい笑顔に見えた。


「それでなんでいきなりそんな話を?」

「人に関わるのって無責任じゃいけないんだって、そう思ったんだ。だからドルフには今の僕がどう見えているのか気になって」

「隊長の足を引っ張らない為にいろいろ考えてここにいるわけだし、お前にしちゃまぁよくやってんじゃねえの」

「意外、ドルフ優しいんだね」

「なんだよその本当に意表を突かれたみたいな顔、それに意外とかいうな、お前は俺をなんだと思ってんだ」

 まったく、とそう言いながらドルフは頭を掻く。


「お優しいドルフさんから忠告なんだがな」

 悪いことは言わないから早くここから逃げろ。と彼は真剣な表情でそういった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ