281回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 86:胸に抱くべき希望の形(2)
状況が落ち着き、なぜあんな騒動になっていたのかリックに訪ねると、どうもモンスターの子供達の愚連隊の中で、リックを筆頭にしたグループと、自分勝手にやりたいと主張するグループで派閥争いのような状況になっているのだと、会話に割って入ってきた柴犬獣人のシバが怒り心頭といった様子で鼻息荒く説明した。
「単純に好き勝手やりたいってごねてるだけならまだ良いんだけどな、なんだか言ってることが物騒なんだよ」
「どんな事を言ってるの?」
僕が訪ねるとリックは少し答えにくそうな表情をした。僕が人間であり、彼らがモンスターである事が起因しているような予感を僕は覚えた。
「人間達に復讐するんだとか、略奪して勢力を強めて兄貴を殺した大人達を殺してやるんだ、とか」
「それは……」
驚いた様子で口を開きかけたマックスが僕の視線を受けて口を閉じ、小さく頷く。
僕は周辺の子供達の様子をよく観察して見回してみた。
『見えるかいジョッシュ』
「小さくて気づかなかったけど、いる」
モンスターの子供の一部に、黒い蠅のような肉片が飛び回りまとわりついているのが見えた。でも今までの黒い肉片とは何かが違う、子供達にとりついていない黒蠅もあたりを飛び回っていて、その行き先を追っていくと、そこにはキルシュの姿があった。彼女はまるで僕が黒蠅を追っていたのに気づいていたかのように、見えないはずの目で僕をまっすぐに見つめて、あのときのように微笑んでいた。
「大罪魔法の影響なの?」
『わからない、けれど何らかの関係性はありそうだ』
「一人でブツブツ言って大丈夫か?」
そういってリックは心配そうな顔をして僕の額に手をあててきた。
「あ、ああ。大丈夫!風邪ひいて熱が出てるとかじゃないから」
僕は少し思案すると椅子から立ち上がった。
「少し外に出てくるよ」
「うんこか?」
「違うわ!ったく子供はすぐうんことかちんことか言うんだから」
ニヒヒと笑いながら見送るリックを後に、僕は公民館の扉を開けて外に出た。そしてポシェットからドルフに貰った犬笛を取り出すと、自分には聞こえないその音色を冷たい風の吹く夜の闇に向かって吹き始めた。




