275回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 83:護るべき大切な人のために(24)
「おいテメェ!」
その声の主である一人の男は、突然僕とマックスの間に割り込むと彼の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「余計な真似しやがって、気に食わねぇんだよよそ者がよぉ!!」
その言葉の直後にフライパンが軽快な音を立てて男の後頭部に直撃した。
「アンタッ怪我人相手にみっともないことやってんじゃないよ!」
「いってぇ、たんこぶできちまったじゃねえか……いだだだ!!」
ダーマはフライパンを片手にその男の耳を掴んで去っていった。
「おーい!ジョッシュ!!」
どこからかリックの声がして僕らは声の方を見ると、遠方から飛び降りてきたリックが僕の目の前で着地し、僕はその勢いに驚いて声を上げながら転びかける。リックはそのまま前転して着地の勢いを殺し、両手をポケットに入れたまま僕らを見て笑った。
「無事だったみたいだな、っと兵士のおっさんの方は結構な大怪我じゃねえかよ」
「おっさ、おっさんですか……」
ショックを受けたような様子のマックスに、僕は思わずくすりと笑ってしまった。
「オブジェクトの方はどうだった?」
僕がリックにそれを訪ねると、彼はぎくりとした様子で両手を上にあげて首を横に振った。
「またブラックアウトが起きて、気が付いたらクリーチャーはいなくなるし、大人たちは正気に戻るし。捕まらないで全員退避できただけでも褒めて貰いたいぜ」
リックの横から現れた獣人の少年は彼の肩を叩いてそう言った。
「な、リーダー?」
「うっせー、次はうまくやってやんだから見てろ!俺だって兄貴みたいにやれるって事思い知らせてやっからな!」
「ギャビンの兄貴は俺達のヒーローですからね」
そう言いながら飼い葉まみれの姿でシバがひょっこりと顔を出す。それに続いて次々とモンスターの子供たちがギャビンを称賛する言葉と共に姿を現してリックを取り囲んでいく。
「おめえら……、ああ、そうだ。兄貴がいなくたって俺達は立派にやれるんだぞって証明しなくちゃな!」
おー!と子供たちが叫ぶ。微笑ましい光景だと思いかけたその時、僕は妙なことに気づいた。リックの横に黒い肉塊がいつの間にか浮かんでいて、それは苦悶の表情を浮かべていた。
「見つけたぞクソガキども!!」
「いっけね警備員のおっさん達だ、ずらかるぞお前ら!!」
リックのその言葉にまたもや蜘蛛の子を散らすように一斉に街中を忍者のように散開する子供達。リックは去り際に僕のポケットに何かを押し込むと。
「今夜寝る場所がいるだろ?後で来なよ、それじゃな!」
そう言ってウィンクすると夜の闇に消えていった。
「凄い体力だなぁ」
待てー!!と叫びながら子供達を追いかけていく警備員達を尻目に、僕はポケットの中に押し込まれたものを取り出すと、それは一枚の紙を丸めた物のようだった。広げて見てみるとその紙には殴り書きのような手書きの地図にバツ印がうってあった。
「この場所は街外れの廃墟がある場所ですね」
地図を見たマックスがそう言った。
マックスの安全の問題と、ジャレドさんとの事も気がかりだった僕は、マックスと二人でその場所を目指すことにした。




