269回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 77:護るべき大切な人のために(18)
「!ジョ、ジョシュア殿」
マックスは僕に気づくと立ち上がり、兵士然とした態度を取ろうとする。でも僕の表情から察したのか、目をそらすと頭に手を当て恥ずかしそうにはにかみ笑いを浮かべた。
「みっともない所を見られてしまいましたね」
「そんなことないです、この都市の在り方はおかしい」
僕が彼の隣に立つと、彼は街を眺めながら話し始めた。
救助にやってきたディアナ公国軍の中隊はまず斥候を出し、敵の総数はおよそ千体のモンスターであることが判明、中隊の人数は二百、その状況で正面衝突をすれば勝ち目はなく、籠城戦に持ち込んだとしても兵士の損耗から守りも突破されてしまう事が目に見えていた。
そのため兵士達は都市を放棄しディアナ公国への避難を提案したが、この都市の領主は情勢不安や混沌浸食による異常状況が起きている公国への避難を拒否。
領主とこの都市の有力者達は”兵士の数が減らなければやりようがある”と判断し、オブジェクトを確保し、兵士達を強制的に生きたまま不死の操り人形へと変えてしまったのだという。
話をしながら酒を飲んでいるマックスを見て僕は言葉を詰まらせる。今まで彼には任務に忠実な生真面目な人物という印象があった、そんな彼をこの都市は追い詰めている。
「自分は、自分自身が情けなくなります……」
濁った眼をしてマックスはそう呟く。
「自分達は何のために命を懸けて戦うと誓ったのか、この街にいるとわからなくなりそうだ」
マックスの横に小さな黒い肉塊が発生していた。ジョッキと酒瓶を手に、彼はその場を離れようとする。
「役割を果たせない軍人に居場所はありません、ジョシュア殿にお手数をかけるわけにもいきませんし、自分はここで……」
「マックスさん、自分を卑下しないでください」
「……お気遣いなさらないでください」
「仲間のために泣くことができるなんて、貴方は立派な人だ」
僕はマックスを抱きしめていた。
「ジョシュア殿……?」
このまま彼を行かせてしまえば、彼の中の大切な何かが永遠に失われてしまう。僕は覚悟を決め、それを言葉にして彼に話し始めた。




