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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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267回目 死神さんの診療所

 天国の果て、地獄の入り口にある一つの館がある。そこには一人の死神と少女が暮らしていた。


 少女は生まれつき不思議な力があり、彼女を見守る死神の姿が見えていて、少女を人間として扱わない人々の中で、死神だけが彼女を人として扱う世界の全てであった。

 少女が死に至った時も彼女にとっての世界は死神の傍にいる事であり、彼女が死後に行く場所も死神の傍ら以外にはなかった。

 そのことに死神は少し後悔していたが、客人がその話を彼から聞くと、産まれたことが原因で地獄へと行くしか道がないよりもずっといいとそう言った。


 人は死後に天国か地獄、そのどちらか、本人が心の底で求める環境に引き寄せられてその末路を迎える。人を労り慈しみ互いの喜びを自らの喜びとするものは天国へ、他者を苦しめ傷つけ踏みにじり陥れることに喜びを見出すものは地獄へ。


 死神の館はそのものの人生において他者との関わりによって本心の心を見失い自己を喪失した者に最後の機会が与えられる場所だ。そこで得た自らに対する結論から、訪れる客人は自己の行き先を決める。


 死神はある日少女にふと自らの事を少女はどう思っているのか尋ねてみた。彼女は屈託なく微笑むと死神がお医者さんで彼女自身は看護婦さんだとそう言った。死神さんのように疲れた人達を元気にしてあげられるようになりたい、曇りない瞳と澄んだ声は、歌うように憧れを語る。


 訪れた一人の客人がいた。彼女はごく普通の優しい人だったが、生きている間周囲から精神が異常であると訴えられ貶められ虐げられ続け、やがて自己を失い発狂し自死を迎えた女性だった。


「彼女と友達になれるかい」

「うん、大丈夫だよ」

「そうか、それじゃ行っておいで」


 死神に客人を任されると、少女は嬉しそうに彼女の元へかけていった。なにかあればすぐに死神が助けに入るつもりだったが、少女は献身的に朗らかに柔軟な心で客人を受け入れ、共に考え、その心の機微の欠片を一つ一つ大切に掬い上げて、彼女が彼女自身の心を取り戻す手助けを立派に果たした。

 客人が天国へ向かうことになり別れの時、少女は彼女が見えなくなるまで笑顔で手を振っていたのに、その姿が見えなくなると、途端に涙をこぼし始めた。

 とっても嬉しいのに、寂しくて、悲しくなったと。彼女は生前一度もこぼした事のなかった涙を流していた。

 死神は優しく彼女の頬を撫で、抱きしめると、彼女と手をつなぎ館へと戻る。

 彼女に客人のケアを委ねていけば、彼女は生前得る事の出来なかった人としての心を手に、天国へ旅立つ日が来るかもしれない。

 悠久の時の中で誰にも求められなかった死神の前に現れた、たった一輪の花のような彼女を手放す日。それを想うと死神は胸が張り裂けそうな気持になった。

 だけれど、彼は少女の幸せを願う。そんな死神が選ぶ道はただ一つだった。

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