265回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 75:護るべき大切な人のために(16)
「あんたなかなかやるじゃないか、子供たちがちゃんと体を洗って出てくるなんて初めての事だよ」
風呂を出るとそこは都市の片隅にある酒場、女主人の恰幅のいいダーマが出迎えてくれた。
「いいお湯でした、お風呂屋さんなんて珍しいですね」
「だろ?温泉だから沸かさなくていいからね、この都市は水が豊かで土壌もまずまず、立地がいいのさ」
「だからモンスター達に狙われもするってわけかにゃ、難儀だにゃぁ」
そう言いながらリガーはホットミルクをちびちびと舐めている。
「あんたらリックの愚連隊ごっこにつきあってくれてんだろ?」
「ちょっとばかり火遊びがすぎるかもしれんがにゃぁ」
「ダーマさんはリック達と親しいんですね」
「あの子の兄さんはうちの常連でね、どこだか知らないがギルドの冒険者やってるんってんで、困り事を相談してよく助けて貰ったもんさ。恩返しにもなりゃしないだろうけど、あの子が大切にしてたもんくらい助けてやりたいじゃないか」
そういってダーマは少し寂しそうに笑う。
「リックも昔は天使みたいだって評判だったんだよ、今じゃすっかりやさぐれちまってガキ大将でしかないけど、まぁあれはあれで可愛いけどね」
「ジョシュア殿!ご無事でしたか!」
そこにマックスが現れ、僕の手を握った。
「よかった、本当に。貴方になにかがあればディアナ公国軍人の名折れとなるところでした」
マックスのその言葉の後に笑い声がした、僕はこちらを濁った表情で見つめる飲んだくれた男達の視線に気づく。彼らは視線をずらすと、わざとらしく大きな声で話し始める。
「ディアナ公国から来た軍人たちはとんでもない間抜けぞろいだったな」
マックスがその言葉に俯く。
「救援んだなんてぬかしやがって、利権目当てに決まってる。善人ぶろうとしてしくじった間抜けな連中には似合いの末路だろうよ。せいぜい生きる屍として俺達の役に立ってもらうさ」
「あいつら……」
僕が一言言ってやろうと動こうとすると、マックスは僕の肩を掴んだ。
「ジョシュア殿、お気持ちだけで十分です」
そうは言ってもマックスの様子は明らかに気落ちしていた。僕とリガーと彼の三人で食事を済ませたあと、僕は一人で酒場を出ていった彼の後を追った。




