263回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 74:護るべき大切な人のために(15)
僕らはその後リックに半ば無理矢理風呂場に連れて行かれ、獣人の子供の一人に背中を流して欲しいと言われ、僕はなんとなくいつもの手癖で彼を洗う。
わしゃわしゃと洗う度にその獣人の子供は「あっ……あっ……」と謎の嬌声をあげ、いつの間にか怖い物見たさな様子の獣人の子供達に僕は取り囲まれていた。
「は……ひぃ」
洗い終わった子供はハートマークを大量に浮かべたような様子でふらふらと離れていき、みんなびくびくしながらも好奇心からか、獣人の子供達は次々に僕にに洗ってもらいに来た。
「お前そんなやばいテクニックどこで覚えたんにゃ……」
そう聞いてきたリガーに僕は少し逡巡すると、思い当たる節を口にしようとした。
「いつもグレッ」
「あっちょっと想像ついた。あんまり考えたくないから答えなくていいにゃ」
僕の言葉をさえぎってリガーはそういうと苦笑いを浮かべた。相変わらず僕の手の中で子供たちが嬌声を上げている。
「懐かれたもんじゃないか、やっぱりギルドの冒険者は違うのかな」
そう言いながらリックはシバを引き連れて僕の隣に腰を下ろし体を洗い始めた。シバがなんだか物欲しそうな顔で僕を見るので手招きすると、彼もぱぁっと顔を明るくし僕の前に座り、僕の手さばきで泡まみれになり嬌声を上げ始めた。
「あんなデカい物どうやって取り返すって言うんだにゃ?」
「塔はただの入れ物だよ、オブジェクト本体はあの中にある。元々は俺の兄貴のものだったんだ。それを領主とこの都市の連中が兄貴を殺して奪いとりやがった」
その言葉に僕はジャレドを思い出して手が止まった、彼と同じ黒豹、そしてギルドのメンバーに与えられるギルドプレート、そして兄と弟の関係。おそらくジャレドの言っていた彼の息子だ。そうするともう兄の方は亡くなっていることになる。
「なんだよぉ、やめちまうのか?」
「ごめん、続きやるね」
「そうこなくちゃっひゃぁん」
シバは尻尾を振りながら人目もはばからず乱れる。
「手伝いって事は奪還の算段があるって事かにゃ?一応聞かせてみて欲しいにゃぁ」
リックはお湯を頭からかぶり体の泡を流すと、リガーを見つめた。水にぬれた彼の姿はどこか美しさを感じる。彼が背負った物からくる精悍さなのだろうかと僕は思った。
「都市の連中はディアナ公国兵の生き人形で魔王軍の侵攻は完全に抑え込んでる、だけど都市の中にクリーチャーが現れるんだ」
「オブジェクトに引き寄せられてる?うわぷっ」
僕はそう言いながらシバにお湯をかけると、シバは全身を振るわせて水を弾き飛ばした。
「それとも別のなにかか……それを利用しようっていうんだにゃ?だけどいつ現れるかわからないものを頼りにするんじゃちと呑気が過ぎるにゃ」
「来る条件ははっきりしてるんだ。領主が不死身の騎士団を使った日の夜、つまり今夜、クリーチャーが現れる」
そういうとリックは不敵な笑みを浮かべた。




