260回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 71:護るべき大切な人のために(12)
僕らの視線の先には金色の杖、豪華な身なりに、リガーもかくやといったふくよかな肉体の男がいた。彼は周りに三人の護衛をつけていて、いかにも街の有力者といった風貌だった。
「ふーむそこの少年以外の貴方たちお二人はこの街の住人ではありませんね?」
リガーは男を見た途端震え始めた子供を一瞥し、僕らに話しかけてきた男を見た。
「悪さしてたらどうだっていうんだにゃ、刑務所にでもぶち込まれるのかにゃ?」
「いえいえ、そんな。この街には裁判所も刑務所もないのです、みな私の説得で理解しあえますからね」
そういうと男は取り繕ったような優し気な笑みを浮かべ、杖を地面につく。
「人が争うのは悲しい事です、説得が必要な方はどちらでしょうか?」
「うわああ!放せー!!俺は生き人形になんてなりたくねぇ!!」
突然何かにおびえて尋常じゃない様子で暴れだした子供をつるし上げながら、リガーは平坦な口調で言う。
「おいらとこいつで話をつける事だからほっといてもらえないかにゃ」
「いけませんよ、それは。トラブルは早いうちに解決しておかなければ大きなトラブルにつながりやすいもの、ここでしっかりと芽を摘んでおかなければ」
僕は男から発せられた異様な雰囲気に身構える。それは好意や善意とは相反する感情、強者が弱者をいたぶる時の、愉悦を含んだ悪意に似ていた。
「おっと手が滑ったにゃー」
そういってリガーは子供を近くの建物の屋根の上に放り投げ、子供は悲鳴を上げながらも屋上にしがみつくと、そのまま走り去っていった。
「いっちまったにゃー悪い悪い、また次の機会に説得とやらをしてやってくれにゃ」
リガーがそういうと、男を取り囲んでいた護衛が僕らを取り囲んだ。
「貴方達にも理解を求める必要がありそうですね」
「自分の言いなりにならない奴は全員対象か、とんだ狂犬だにゃ」
僕らが臨戦態勢を取りかけた時、街の住人が大声を張り上げた。
「モンスターの大群がやってくる!魔王軍の連中が攻めてきたぞ!!」




