257回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 68:護るべき大切な人のために(9)
「ゲームの時は騎乗スキルは取得してたけど、実際に乗るとなると……」
僕は思い切って馬に飛び乗る。馬が軽く二三歩歩き、バランスをとる。これならなんとかいけそうだ。
「そいつは気性が優しくて知恵が回る、お前さんの腕にあった走りで合わせてくれるはずだ」
「ありがとうございます、それじゃ僕行きますね」
「ブロードヘインへ、かい?」
黒豹獣人の言葉に僕はぎくりとさせられる、ドルフには帰るように言われたが、僕には前に進まなきゃいけない理由がある。
「ダメだって言っても行くんだろう?」
そういって黒豹獣人は僕に何かを投げ、僕はそれを受け取る。手の中には犬笛のような物が握られていた。
「俺たちに用がある時はそれを吹いてくれ、それとブロードヘインには街から出られなくなってるモンスターの子供たちがいるはずだ、そいつらを街から救出してやりたい。俺の息子二人がまとめ役をして隠れてるはずだ、手を貸してやっちゃくれねえか」
「わかりました、ドルフによろしく言っておいてください」
「ああ、気をつけてな」
黒豹獣人の見送りを受けながら、僕は馬をゆっくり前に、次第に速度を上げて街へと向かう道へ向かう。
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「いたなら声をかけてやればよかったんじゃないのか?」
黒豹獣人のその言葉に応じるように、物陰に潜んでいたドルフが姿を現す。
「気づいてたのか、人が悪いぜジャレド教官」
「教官ね、今の俺には関係のない話だが」
「闇ギルド教官、腕は確かだ、おかげで大分俺も自信がついた」
そういってドルフは肩にかけていた刃のついた弓を数回振り、落ちていく木の葉を数枚どれも同じ形に六分割で切り裂いた。
「なかなか板についてきたじゃないか、あっちの方は物になったのか?」
「あれはまだまだ、だけど必ずものにするぜ。そうしたら今度はアイツに一泡吹かせてやる」
「その意気だ、と、その威勢がある割に友人には奥手なんだな?」
ジャレドのその言葉にドルフは深いため息をつき、恨めしそうな顔をして彼を見る。
「人が悪いぜ、せっかく人が話を逸らしたってのに」
「俺は興味のあることは逃さない主義なんでな」
「ずいぶん気に入られちまったもんだ、もっと不真面目にしときゃよかったよ」
「それで、ジョッシュとかいったか。アイツとはどういう関係なんだ?」
「どういうもこういうもただの同僚みたいなもんさ。ちょいとばかり在るものに関して競い合ってる部分はあるが、そんだけの関係」
「そうは見えなかったがなぁ?」
「俺にもよくわかんねぇんだけど、今朝からなんか変なんだよ。俺アイツを見てると顔が熱くなって、胸が妙にうずくっていうか……落ち着かねえっつーか」
「ほうほう、それはそれは」
「言っとくけどアンタが思ってるような事じゃねえから!酒の飲みすぎて胃がムカムカしてんだ、きっとそうに違いねぇ。迎え酒でもかっくらってくらぁ」
そういうとドルフは逃げるようにその場を後にした。
「若いねぇ」
ジャレドは目を細め愉快そうに頷くと、ドルフの背中を見送るのだった。




