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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
千の夜と一話ずつのお話
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26回目 痛みのない死の世界

トントントンと医者はペンを使って同じリズムを刻み続けていた。

「これが通常の思考の人間の思考パターンとすると最初はこう、途中で音が止まるなどの小さな異常、

 それが全体に波及して大きな乱れに変わってゆく。この病はそうなる人に前もって発症する病なんです」


国が国家運営のために蔓延させた死の病、

それは殺人などの凶悪犯罪を起こしそうな脳波シグナルを刻み始めると発症し、

初期症状として空想上の人物が感染者の目の前に現れ始める。

彼女の視界には二人の人物が映っていた、片方は医者、そしてもう一人は優しい微笑みを浮かべた好青年。

青年が他者に見えていないと気づくのにそんなに時間はかからなかった、

彼女も最初こそ街中で出会った青年がまさか自分の幻覚だなど思いはしなかったのだが。


その病は脳に腫瘍として第二の脳が生じ、それが感染者の脳内情報から

その人物が求める最も理想とする完璧な人物を生み出す。

思考や行動なども第二の脳が行う為、

幻覚ではあるもののコミュニケーションなども成立するのが厄介な病でもあった。


元々が国家による研究機関が開発した病であるため、

発症からの死亡時期についても明確な予測が立てる事が出来、

医者はそれを包み隠さず彼女に話した。

「脳波シグナルが正常に戻れば完治できますよ」

と彼が言っていたがそれはあくまで理論上の話である、

情報化社会のサガというもので、完治したという事例は今まで一例もないという事は、

彼女が医者にかかる以前に自分で調べてしっていた。

実装においての意図された誤算、開発者の方便という見方が主流の結論らしい。

実際は完治できる仕様なのかもしれないが、

ほとんどの人間が自らの死を納得してしまい、改善を放棄してしまうのが原因という事だった。


自分にとって理想な人物が現れたことによって自分の生に対して満足してしまうのだそうだ。


でもそんなのはどこか病んでいる、そう彼女は思った。

彼女は身は病んでも心までは病んでしまいたくはない、そう思っていた。


彼女は両親と自分の三人家族で育った、

両親は離婚し父に引き取られたもののほとんど放置された状態で、

あまり家族というものを実感しない人生を送ってきた。


そんな彼女はある「もしも」を空想して生きていた。

強請るわけでもなく、もしかしたら、

そうだったら今の結果が違っていたかもしれないという些細な空想。

それが今更目の前に形をなして存在する「彼」だった。


いたらいいなと思っていた兄、

もし理想的な兄がいてくれたら、力足らずな自分を助けてくれる味方がいてくれたら。

あんな喧嘩くらいで両親は別れず、自分は一人ぼっちで生きていかなくてもよかったのに。


たしかにそれは願いだった、叶ってほしい希望だった。

だけど今更それが目の前に現れたとしてなんになるのだろう?

彼女は親しげに話しかけたり微笑みかける彼に冷たい態度しかとることができなかった。


きっと自分はこの病から完治する初めての例になるかもしれない、

でも彼女は心のどこかでそれを少し残念に思っていた、

自分でも気の迷いだと、そう考えながらも、

心のどこかで彼に期待している自分が理解できずにいた。

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