256回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 67:護るべき大切な人のために(8)
馬小屋に向かうとそこには、宴会の時に僕をじっと見つめていた隻腕の黒豹獣人の姿があった。近くで見ると毛皮がはち切れそうなほどの暴力的な筋肉、その身体のラインを際立たせるような艶やかな光沢をもった毛皮、強盗集団のような虎獣人達の中にあっても目立ちすぎる雄性の化身そのものといった様子で、思わず緊張してしまう。
「おう、来たな」
馬の頭を撫でていた彼は、僕を見るとにこやかにそういった。
「あなたが馬番ですか?」
「連中が起きてくるまでの間だけだけどな」
そういうと彼は宴会の時のようにじっと僕を観察するような目をした。
「どこかでお会いしましたっけ?」
僕が怪訝な顔をすると、彼はああ、とふと我に返って僕の胸を指さした。
「ギルドのプレート?」
「そいつを見てたんだ、人間をメンバーに入れるなんて良くガットの奴が許したもんだなと思ってね」
彼はそう言いながら、胸元からギルドプレートを取り出して見せた。
「あなたもギルドの一員なんですか」
「元、だけどな」
そういって黒豹獣人は無くなったほうの腕の肩を持ち上げて言った。
「もう行くのか?」
彼のその言葉に含みを感じた僕は、正直に今思っていることを口にすることにした。
「ドルフの力が借りられたらよかったと思うんですが、彼にも事情がありそうですから」
「悪く思わないでやってくれ、奴も離れられない事情があるのさ」
そういって黒豹獣人は集落を眺める。
「ここいらでブロードヘインと衝突している魔王軍残党がいてな、人間に恐れをなしてるここの長がこの集落を丸ごと魔王軍に身売りするのを止めるのに、長の息子のアイツの力がいるんだよ」
「ドルフってこの集落の長の息子なんですか」
「ガラが悪くてそうは見えないだろうがな」
そういって黒豹獣人は笑った。




