255回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 66:護るべき大切な人のために(7)
目が覚めると僕の隣に寝ていたはずのドルフはいなくなっていた。
「あれだけ飲んでたのに早起きだな」
そう呟きながらベッドから降りようと視線を床に向けると、そこには正座して僕が起きるのを待っているドルフの姿があった。僕と目が合うと彼はビクッと体を弛緩させ、耳を伏せて不安そうな顔をした。
「どうかしたの?」
「あのさ、ジョッシュ。聞きにくいんだけど、酔った勢いで俺なんか変な事してないよな?」
あーなるほど、と僕は納得し、なにもなかったと答えかけて口を開くのをふとやめる。
「な、なんだよ、やっぱり俺何かしちゃったのか?」
昨日のやりとり少し嬉しかったのに覚えてないなんて残念だし、よーしちょっといたずらしちゃおうかなと思いたつ。
「ドルフってお酒に酔うとあんなに乱暴になるんだね、僕ドルフに無理やり抱かれたんだよ?覚えてないの?」
「お……おいおいまさか俺お前に」
ドルフは目を見開き滝のような汗をかきながら全身を総毛立たせる。
「なんてね、抱きしめられたは事実だけど。変なことなんてされてないよ。ってドルフ?」
てへぺろっとしながら彼を見ると、そこには全力で土下座しながら体をワナワナと震わせているドルフの姿があった。
「あわわ、ごめんドルフ冗談のつもりだったんだけど」
「え?俺なんもしてないのか?ほんとに?」
上目使いに耳を伏せて尋ねるドルフが妙に可愛く見えた。
「ドルフって意外と素直なんだね、そんなに驚くなんて思わなくて」
「ば、バッカおめー俺が素直だと?」
彼はそう言って即座に立ち上がると背中を向けて頭を掻く。その顔は真っ赤になっていた。
「ふんっ冗談も大概にしておけよな!」
尻尾は正直なんだよなと僕は嬉しそうに立ち上がり左右に振られる彼の尻尾を見て笑う。
「一応飯作っといてやったからそれ食ったら馬番の所で馬を貰え、お前がここに長居すると面倒なことになるから早く帰れよ」
たしかにリガー達が街についていたら応援を呼んで僕を探しているかもしれない、痕跡を追ってこの集落を見つけられたらたしかに彼らにとって不都合があるだろう。それにリガー達を心配させるのも心苦しい。
「うんわかったよ、そうする」
ふんと鼻を鳴らして出ていこうとするドルフを僕は呼び止める。
「ドルフ、助けてくれてありがとう」
ドルフはなんだか複雑そうな顔をして僕を見ると、なにか言いたげに宙を仰ぎ、まぁいいかと呟いてそのまま出て行ってしまった。
照れくさかったのかな?そう思いながら僕はベッドから降り、彼の作った朝食の匂いを嗅ぐ。
「良い匂い、それに美味しそうだ。やるじゃん」
粗雑な印象のあった彼からは想像出来ない、女子力高めな食事にほほえましくなりながら、僕はそれを食べ始めた。




