254回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 65:護るべき大切な人のために(6)
「オラぁ…よぅ!グレッグ隊長に申し訳なくてよお!テメエにも無様な格好見せちまっていたたまれねえしよ。情けねえ自分を鍛え直すために古巣に帰ってきたわけ!!わかる?」
「はいはいわかるわかる、ほらベッド座って、お水いる?」
「いる!いりまーす!」
僕は宴会の後見事に酔いつぶれたドルフに肩を貸しながら、彼の家まで連れて行くはめになってしまった。酔っぱらった彼の説明は不明瞭で、あっちかな?あっちだったかな?と二転三転する説明で村を三周くらいはしたと思う。正直この家が本当にドルフの家なのか少し不安もあったけれど、深くは考えないことにした。
「はいお水」
「飲ませて!飲ませてちょーだい!!」
「子供か!わかったよーじっとして、ほら口開けて」
口の中に水を注ぎ入れてると、彼は口の横からそれを盛大に零しながら嬉しそうに飲む。
「ぷはー生き返るぅ」
「酒臭ぁ、まったくしょうがないなぁ」
僕はびしょぬれになった彼の服や体の毛皮を手ぬぐいで拭いた。
「ジョッシュよう、お前優しいとこあんだな?お袋みてぇだよう。おふくろぉ!」
「わたたっ!苦しい、そんなに強く抱きしめないで!」
ドルフに抱きかかえられ、僕はそのまま彼に引き寄せられてベッドの上に押し倒されてしまった。
「うえぇんおふくろあいたかったぞー!おふくろー!」
ドルフは恥ずかしげもなく泣きじゃくり僕の顔をペロペロとなめ回す。
「だ、だめだこりゃ」
でもこうしてみるとドルフも大きな猫みたいで何だか可愛いと思えた。それに彼なりに必死だったんだろう、お酒でたがが外れるとそういうのも一気に噴出するもんだよなと、僕は彼に少し同情した。
「大変だったよねドルフも、えらいえらい」
ドルフの頭を撫でると、彼は喉を鳴らして頬を赤らめ気持ちよさそうに目を細める。
「それに強くなりたいって気持ち、今の僕ならわかるよ。いざという時にグレッグが頼りにできるような僕になりたい。だから僕もここに来たんだ」
ドルフはグレッグの名を聞くとカッと目を見開き僕に顔を近づけて大声を出す。
「隊長の横は俺の場所らぞ!お前には負けんかりゃな!!」
「僕だって!負けないよ!!」
彼の唾で顔をぐしゃぐしゃにしながら僕は彼の頭をわしゃわしゃと撫で回した。もうめちゃくちゃである。
「やめろぉーふひぃー。それはそうと、こうしてると……」
ドルフは僕に頬ずりをして、遠くを眺めるような目をして感じ入るような表情を浮かべた。
「隊長がお前に惹かれるの、なんかわかるな……」
「え?今なんて?」
「……」
「ドルフ?」
「ぐかーっ」
僕を強く抱きしめたまま彼は大いびきをかいて眠りに落ちてしまった。ブロードヘインに人が向かうと不味いというのはなぜなのか聞きそびれてしまったが、幸せそうな彼の寝顔を見ているとこのまま寝かせてあげたいという気持ちになった。
「それにこの状態で聞いてもまともに答えて貰えるとも思えないしね、ふわぁ」
僕も急に眠気が襲ってきてあくびをした。ドルフの腕の力が強くて離れられないので、仕方なく添い寝の形のまま彼に布団を掛け、自分もそれの中に入る。
「でも正直、君に会えて心強いよ」
ドルフの顔を撫でて僕は呟き、むにゃむにゃとドルフは俺に任せろぉと寝言を言って僕は笑う。安心感とドルフの毛皮の温もりで僕はいつのまにか眠りについていた。




