252回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 63:護るべき大切な人のために(4)
突然馬車に衝撃が走り、僕らは武器を手に身構えた。
「モンスターの襲撃です、全速力で飛ばします!」
御者の叫びと共に、加速した馬車は道の凹凸で激しく上下する。
「うへぇ、酔っぱらいそうだにゃぁ」
「へ、へ、へ、下手に、喋る、とっ、舌を、噛みそう……だぁっ!?」
馬車の外を見ると虎獣人が十数人こちらに大挙してきていた、馬に乗っているのは数人で、その数人が馬車の車輪に対して攻撃を行い、速度が緩まったら後続の虎獣人達が馬車に乗り込むという陣形のようだった。
「グレッグかドルフがいれば……」
こちらの戦力はリガーとマックスと僕、リガーは攪乱はできる、マックスさんも数人なら相手をできるだろう、だけどこのままぶつかれば二人とも無傷というわけにはいかない。僕は馬車の縁に足をかけ身を乗り出す。
「お、おいジョッシュ!なにするつもりにゃ!?」
僕は馬車に乗り込もうとした虎獣人の一人を山刀で斬り、肩越しにリガーを見た。
「僕がおとりになって食い止めるから応援を呼んで!」
「無茶はやめろにゃ!」
「私も行きます!」
こちらに向かって来ようとする二人に僕は琥珀のダガーを見せる。
「大丈夫、ここは僕が行くのが一番良い。僕に何かあったらグレッグのこと頼むよ」
「ジョッシュ!!」
僕の名を叫び腕を掴もうとするリガー、虎獣人の車輪への投石が衝突し馬車が跳ね上がり、リガーとマックスが体勢を崩した瞬間、僕はその衝撃を利用して馬車を飛び降り飛翔する。
「パット!お願い!!」
琥珀のダガーを虎獣人達に向けて叫ぶと、地面から伸びた植物が虎獣人達の足を絡め取った。僕はそのまま地面に叩き付けられ、バウンドしながら転がる。
「ッぐぅ!!」
あまりの衝撃に目が回り、意識が飛びそうになったが、僕はすかさず馬車の方角に向けて琥珀のダガーを振り、馬に乗った虎獣人達の前に蔦で出来た壁を形成した。
「痛た……」
よろよろと起きあがると、虎獣人達は植物を引きちぎり、僕の周りを取り囲んで、顔に皺を寄せ歯をむき出しにし、うなり声を上げて僕を威嚇した。
「あらら、逃げるまで足止めが持たなかったか」
僕は山刀と琥珀のダガーを構える。グレッグのためにこんな所で死ぬわけにはいかない。
「ん、おい!お前らちょっと待て」
馬に乗った虎獣人達が合流し、その中の一人がそう叫んで、襲いかかってきていた虎獣人達の動きが止まった。
「ジョッシュじゃねえか、なにやってんだお前、こんなとこで」
そう言ってどこか呆れたような表情を浮かべ、馬の上から僕を見下ろしていたのは、黒騎士の襲撃以来消息不明になっていたドルフだった。




