251回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 62:護るべき大切な人のために(3)
「そろそろ緩衝地帯を抜けます」
マックスのその言葉に僕とリガーが馬車の外を見ると、そこには先ほどまでの景色が嘘だったかのような緑の大地が広がっていた。
「うわぁ、なんだか物凄く気持ちがほっとしたよ」
「たしかにこの先ずっとあんな場所で仕事せにゃならんと思うと気が滅入るどころじゃなかったしにゃ」
多数のオブジェクトによる混沌浸食の影響を受けているという特異な状況だからか、僕らは侵食されているエリアを彷徨う事もなく、僕が森で遭遇したような境界に遭遇する事もない状態で抜けることができた。
「それでもこの地域も混沌浸食に飲み込まれてるんだよね?」
「その通りです、我々はこのままブロードヘインへ向かい、そこを拠点にお二方にはその原因の特定と排除をお願いすることになります」
マックスは恐らく消えた中隊についての捜査を行うのだろう、貴族の男の横で話を聞いていたマックスの様子が脳裏によぎる。
「僕らもマックスさんのお仲間の捜索で手伝えることがあれば言ってください」
「げ、金にならない事はおいらはごめんだにゃ」
「リガーはいいよ、僕がそうしたいってだけの話だから」
マックスは静かに僕を見ると、胸に手を当てて頷く。
「お気持ちありがたく頂戴いたします」
おそらく彼が僕らに頼むことはなにもないだろう、だけど一言気遣いをされるだけで人の気持ちっていうのは思いのほか楽になるものなんだ。マックスの表情は鉄仮面で見えないけれど、その柔らかな声と雰囲気で僕には彼が微笑んでいるような気がした。




