250回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 61:護るべき大切な人のために(2)
僕らの目の前に現れた光景は街の逆側とはまるで違う様子だった。
「まるで何も起きてないみたいだね」
「こちら側は国の中の権力者層による派閥の影響力の強い地域ですから、でも仮面は取らないでください」
マックスがそう言うと僕らの前を一人の若者が大慌てで走り去り、それを兵士が数人がかりで殴り掛かり取り押さえ、ゴミを回収するように馬車に押し込むとどこかに連れ去っていってしまった。
「放置されてるかされてないかの違いだけだにゃ」
僕の背筋に寒気が走った、逆側を歩いていた時はリガーも同じような気持だったんだろうか。
「仮面をしてるだけで大丈夫なもんなのかにゃ?」
「う、聞きたかったけど聞くのが怖い話を……」
「現状に対して疑問を持つものも少なくないので、今のところは意識的に対立を避けるため、仮面を被って正体を隠している者に対しては手を出さないという暗黙のルールがあるんです」
それもいつまで持つか……。マックスはそう呟く。
都市の出口に用意されていた馬車に乗り込み、門を抜けて道を進んでいくと、次第に緑は枯れ大地はひび割れ、地面の割れた隙間から燃え滾る黒煙が空に立ち昇っては火花を散らして消えていく異常な光景に変わっていく。
「混沌浸食ってリガーと初めて会った森しか見たことがなかったからあまり実感なかったけれど、こうしてみるととても生き物が生きて行けそうにないね」
「ここまで酷いのはおいらも初めて見るにゃぁ」
この世にあらわれた地獄の中を馬車は北の都市ブロードヘインへ向かって進んでいく。
「グレッグ、きっと助けるから。待ってて」
僕は彼からもらった山刀を握りしめ、不安に潰されそうになる自分の心を必死で奮い立たせるのだった。




