246回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 57:冒されざる秘枢(4)
「実は我々にもあのオブジェクトの本当の力はわからない。巫女達の間で伝承され、その本質はけして外部に知られてはならないとされてきた」
「混沌侵食をこちらのオブジェクトによる侵食で中和している事以外はわかっていません」
「オブジェクトがどういう物なのかわかっていれば、騒動を多少は緩和できるんじゃ」
「そうわかっていても、実行しないんだ連中は」
貴族の男は苛立ちを表情に出し、疑うなという方が無理があるという話だろうな。と呟く。
「それにしたって尋常じゃない暴れっぷりだよにゃ」
「人を傷つけ殺すという事は罪悪だが、それは人間の性質からくる観念ではないからだ。所詮人間性とは価値観でしかない。制御を失った民衆を止めるには何かしらの理由が必要だ」
男はため息をつくと口を開いた。
「私が昔赴任していた国での話だ。その国は滅びる間際に老人を殺せば国民が助かるという価値観が蔓延してな、社会運動として害獣の駆除のようにそれが実行された。道ゆく人々は皆誇らしげで、誰も自らの行いに疑問を持たず、人々は肩を組み笑い合っていた。汚れを知らない善人のような笑顔でな」
彼は悍ましい物を見たかのように顔を歪める。
「私はあの光景を見てから人間という生き物を信用する事をやめた、我々は正しく管理されなければ暴走する猛獣なのだ」
再び僕を見た彼の目は再び鋭い眼光を放っていた、僕はそれが彼の決意から来るものだと理解する。
「イニシアチブを持つ者のヴィジョンで全ては塗りつぶされていく、特にこんな混沌とした状況では希望は破滅の淵源たりえる。巫女は現状この国で最も危険な存在だ。その一面は執政者として忘れてはならない」
「それってその時のための用意があるという意味ですか?」
僕は少しだけ嫌な予感がして彼に尋ねる。
「さてね」
そういって男は何の感情もうかがわせない表情をする。
「なんの話をしてるんだにゃ?」
「行こうリガー」
「ちょっと待つにゃジョッシュ」
「彼らに同行しろ」
「はっ」
リガーとマックスが僕の後ろからついてくる。
「マックスさん、巫女様に会えますか?」
巫女をこの目で確認しておきたい、僕はそう思った。




