244回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 55:冒されざる秘枢(2)
「遠路はるばるご苦労、貴様らにはまず状況を理解してもらう必要があるな」
僕らが部屋に入ると彼はそういって、顎をしゃくるとマックスが頷き僕らに話し始めた。
「お二人もご覧になった通りこの国は今不安定な状況が続いています。その原因はいずこかで発生した複数の混沌浸食の影響を、この国が被っている事に起因しています」
マックスは僕たちの視線を誘導するように壁に掛けられた地図の前に移動した。
「家畜が不死となり、眠ったまま目覚めなくなる者が日に日に増え、灼けつく雨により大地は乾き果て。この国の巫女が扱うオブジェクトによる保護がない地域以外地獄の様相を呈しています」
マックスが地図を見るのにあわせて地図を見ると、そこには三か所に印の鋲が打たれていた。
「影響の強度と範囲、そして人間の集まる場所から、この三点がオブジェクトの在処と推測されています」
「このうちの一つ、北の都市ブロードヘインへ派遣した中隊の連絡が途絶えたのだ」
マックスは俯き、貴族の発したその言葉に頷く。
「元はこの者がいた部隊も含まれていてな……」
貴族は自らを責めるような表情を一瞬浮かべ、再び厳めしい表情へと変わった。
「国内がこんな有様で救援を送ろうにも人員を割くこともできん、ゆえに恥を忍んで貴様らに来てもらったという事だ」
「巫女のオブジェクトに守られているのに、国内で暴動が起きているのはなぜなのかにゃ?」
「この国は今巫女が全ての元凶であり、この国家を動かしている中高年者の間違いによって自分達が脅かされているという若年層による暴動と、そうした若年層から巫女を守り、若年層を弾圧することでコントロールを行おうとする中高年層の暴動が起こっているんです」
「それもオブジェクトのなんらかの影響ですか?」
僕は住民の黒い肉塊を思い出しながら訪ねる。
「可能性はあるな」
貴族は僕を値踏みするような目でそういった。
「この国の女王は代々ディオスの巫女が務めている。しかし執務に関しては我々貴族や執政官が担っていてな。伝統を重んじるという名目でその状況に依存し、自ら思考する事を放棄した者達には私も不甲斐なさを覚える。しかし事実を知ろうともせず改革だけを求める者に力を与えることは許してはならない」
「事実を教えれば解決するんじゃないのかにゃ」
「伝えたところで若者達の頭の中にある自分達に都合のいい理想とやらが理解を拒む、連中が認識を歪める状況を打開しない事には進展はないだろう」
「既にそれを試みた執政者が数人、若年層の者達によって処刑されています」
リガーは顔を押さえてそいつは面倒だにゃと呟いた。黒い肉塊の影響があるのかもしれないと僕はドルフの以前の状況を思い起こしてそう思った。肉塊とオブジェクトになんらかの関係性があるのなら、僕はそう思って口を開く。
「この国を守っているっていう巫女のオブジェクトってどういう力があるんですか?」
僕のその言葉に貴族の男は顔をしかめ、しかし僕を見ると口を開いた。




