243回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 54:冒されざる秘枢(1)
ディアナ公国にたどり着いた僕たちは、なんだか物々しい様子の検問に違和感を覚えた。馬車を降りる際御者がリガーの顔をじっと見る。
「なんだにゃ?」
「やっぱりリガーさんは顔を隠されたほうがいいですね」
「不細工だって言いたいのかにゃ」
シャー!と声を出すリガーに僕は吹き出しそうになる。
「失礼しました、この都市では今大規模なデモが起きてまして。この近辺は若年層のデモが行われているので、中高年の方は年齢がわからないように顔を隠した方がいいのですよ」
「ふむん」
大人扱いされてリガーがどことなく嬉しそうだ、一瞬で毛が倒れ、尻尾が上向きになる。人間の姿のリガーは年相応に見えるらしい。お祭りに使うようなお面を渡され、リガーがそれをかぶると僕らは先方と待ち合わせをした場所を目指して歩き始めた。
検問のエリアを通り過ぎると暴行がいたるところで行われていて、生きているのか死んでいるのかわからない倒れた中高年がそこかしこに倒れ血を流していた。若者たちは魔女を殺せとしきりに叫びながら街を練り歩いている。彼らは皆横に小さな黒い肉塊を浮かべていた。
「さすがにこの人数を一人一人相手にしてるわけにはいかないか……」
「なにか言ったかにゃ」
「ううん、なんでもない。そろそろ待ち合わせの場所だね」
待ち合わせの場所も少しおかしな所で、裏路地を通り抜け奥に入り込んだ広場のような場所だった。落書きやゴミが散乱し異様な雰囲気を醸し出している。
「ギルドの方ですね?こちらです」
ひそひそ声が聞こえて振り返ると、マンホールの蓋を半分開いた形で中から鉄仮面の衛兵が僕らを手招きしていた。
「げ、まさか次はこの中に入れっていうんじゃないよにゃ?」
「申し訳ありません、今は状況が状況なだけにご容赦ください。さあどうぞ、誰かに見つかる前にお入りください」
彼は蓋を大きく開け、僕らを招き入れた。
下水道のような場所に入るのかと思ったが、中には水すら流れておらず、むしろどこかの地下遺跡のような清潔さだった。
「ここは古くからある貴族の使う秘密通路です、下水道とは別に設けられているんです。申し遅れました私はマックスと申します。この都市で皆様のご案内を申し付かっております、以後お見知りおきください」
マックスは鉄仮面と鎧姿のいかつい雰囲気とはまるで正反対の紳士的な物腰で僕らを案内してくれた。
「この度はこのようなご案内になってしまい誠に申し訳ございません、改めまして、皆さま。ディアナ公国へようこそお越しくださいました」
マックスは僕らに深々とお辞儀をすると、たどり着いた扉を開く。その部屋の中には威風堂々とした雰囲気の貴族の男が厳めしい顔をしながら僕らを待ち構えていた。




