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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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241回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 52:いざ新しい世界へ

「準備はできたのか?」

「はい、教えてもらった物と、あと個人的に使いそうなものを少々」

「あとおいらのおやつもにゃー」

 にゃははと笑いながらリガーは馬車の中でくつろぎながらさっそく干し魚を食べている。

「あっそれ僕の保存食じゃないかー!」

「ケチケチすんなよにゃ、おいらが面倒見てやるんだから安いもんだにゃー」

「もー、遠足気分なんだから調子狂っちゃうなぁ」

「途中行商とかに会う事もあるだろうから、足りなくなったら買い足せばいいんじゃないか。あとこれは俺からの選別だ」

 マスターはそういうと、僕に何か白い陶器でできた瓶のようなものを投げてよこした。

「お守り代わりだ、肌身離さず持っておけよ」

「ありがとうございます。あの、グレッグの事よろしくお願いします」

「ああ、任せろ」

 その言葉に僕はほっとして顔がほころぶ。

「それじゃ行ってきます!」

 僕の言葉を聞いて、御者が馬に合図を出し、馬車はゆっくり進み始めた。

 ギルド酒場から遠ざかり、街で出来た知人が僕を見かけると手を振り見送ってくれる。これからしばらくこの街ともお別れだと思うと、なんだか名残惜しくて、僕は遠ざかっていく街並みが見えなくなるまで見つめていた。


「それはそうと」

 なんだかさっきからリガーが僕の体に密着して、全身の匂いを嗅ぎまわっているのがいい加減気になり、僕は彼に声をかけた。

「食べ物なんて持ってないよ」

「いや、なんかすごい金目の物の匂いが……、あ、上着の内ポケットの中のこれかにゃ?」

「うわっやめってそんなところに顔突っ込まないで……はぁんっ」

 リガーはもだえる僕に関せずポケットから陶器の瓶を取り出すと、その匂いを嗅いで目を丸くした。

「エルフの霊薬だこれ!」

「ん、なんか珍しいものなの?お守りってマスターは言ってたけど」

「体が真っ二つになっても元通りくっつくとか、万病が治るとか言われてる伝説級の薬だにゃこれ!」

 リガーは瓶の作りを隅々まで観察して、一人で何かに納得したように頷いている。

「これ一本売ったら小さい城くらい買えるんじゃないかにゃ?」

 そういって彼は僕に物欲しそうな顔をしてみせる。僕は彼の話を聞いて真っ先に頭に浮かんだことを呟く。

「グレッグ……のは体の傷じゃないから駄目かな」

「残念ながらにゃーそういわれちゃうと無理言いにくくなっちゃうよにゃ」

 ちぇっと残念そうに言いながら、リガーは陶器の瓶を僕の手の中に返した。

「マスターも本当はグレッグの治療のために、そいつを手配したのかもしれないにゃぁ」

 僕はマスターへの感謝の気持ちを噛みしめながら、陶器の瓶をポケットにしまいなおした。

「っていうかジョッシュ、今回の遠征引き受けたのってグレッグの治療法探しって名目もあるんだよにゃ?」

 どうやらリガーには僕の本当の目的がお見通しらしい、僕は素直に答えることにする。

「うん、プレートを作った魔術師なら、今のグレッグを治療する方法を知ってるかもしれないからね」

 僕の返答にリガーは心底呆れた顔をして顔を横に振ると、愉快な珍獣を見るような目で僕を見た。

「そのためにほぼ確実に死ぬような事引き受けちゃうなんて、お前ってグレッグの事になると頭おかしいよにゃ」

「友達だもん、当然だよ」

「友達、友達にゃぁ。ジョッシュはおいらがグレッグみたいな事になっても同じことしてくれるのかにゃ?」

「ごめんリガーのためには無理」

「にゃんだとー!?くそーちょっと傷ついたぞぅ」

 そういうとリガーは馬車の隅に丸くなって、尻尾をぱたんぱたんと床に叩きつけながら不貞腐れてしまった。

「嘘でももちろんやるって言ってくれてもいいじゃんかよー」

 そんな彼の様子が可愛らしくて僕はつい顔がほころんでしまう。

「ごめんごめん、冗談だよ。リガーも大事な友達だから、僕はやれること精いっぱいやるよ」

「本当かにゃ?」

「もちろん本当」

「じゃあ残りの干し魚食べてもいい?」

「なにがじゃあかわからないけどいいよ、冗談のお詫びって事で」

「話がわかる奴は大好きだにゃー!」

 そういうとリガーはいつの間にか手にしていた干し魚の袋を開けて、中身を食べ始めた。もしかするとこの流れに持っていくために一芝居うたれたのかもしれない。油断も隙も無い奴だなぁと僕は独り言ちて笑う。でも彼が僕についてきてくれた事には感謝していた。内心不安で胸が一杯だけれど、リガーのお気楽ぶりに僕も感化されて、少し気持ちが楽になる。今は前を見よう、やるべきことをやる時だ。馬車の向こうに広がる、今まで見たことのない新しい景色を見つめながら僕はそう思うのだった。


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