240回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 51:てのひらいっぱいの幸せを(8)
数日後、僕は闇ギルドの会議に呼ばれ。そこに出席したマスターの付き添いとして彼の後ろに立っていた。物々しい雰囲気、そして円卓に座ったモンスターの面々は皆ボスモンスターにふさわしい風格を持っていて、その場の空気に僕は圧倒されそうになった。
議題はまず先日起きた不安定オブジェクトによる人為的なカオスバースト現象についてだった。ギルドプレートの魔力によってグレッグ達は崩界に巻き込まれることはなかったが、それによってプレートの魔力が一時的に消失したことで、グレッグ達の姿がモンスターとして人間に認識できるようになってしまったこと。そしてその人為的なカオスバーストは最近様々な地方でテロとして行われ始めているという。
そのテロを行っている組織の名は闇の血統、黒騎士で構成された裏社会の傭兵団だという。
そしてその会議で出た今後のギルドの動きは、プレートの強化のためにプレートを作った魔術師に接触する事。そして魔術師のいる領地での活動許可を得るために、交換条件として先方のディアナ公国におけるオブジェクトによる事案を解決することだった。そこまではマスターが予想していた通りに進んだ。問題はそこからだ。マスターは振り向くと肩越しに僕を見て、僕は頷いて見せる。
ガットが声を上げた。
「それでは誰を向かわせるか、という事になりますが」
「俺にあてがある」
マスターが口を開くと周囲がどよめきだった。
「会議で貴方が発言するのは初めてですね、どうぞ」
「俺は俺の後ろに立っているジョシュアが適任だと考えてる」
その言葉に再びどよめきが上がった。
「しかし彼はまだ新人ですよ、それに人間だ。件の砦の事では彼を評価するものもいるようですが、私は信用性において少々不適切かと」
ガットは静かに冷たくそう言い切る、その言葉に多くの賛同の声が上がった。しかしマスターは臆せず続ける。
「人間の方が人間相手に取引するには好都合だ。それに今のプレートでは崩界から帰還すると魔力が尽きてモンスター達の姿がばれちまう。もし取引中にそんなことにでもなったら、このギルドにも大きなリスクになるだろう?」
マスターのその言葉にざわめきが静まり、彼の提案を受け入れる空気に切り替わっていった。その多くがモンスターの人材を失うリスクを避けるにはちょうどいいかもしれないという声だったが、僕はむしろ好都合だと思った。ガットが不服そうな顔で僕を一睨みした。
「一つ確認したいのだが、いいかな」
そう発言したのは狼のような姿をした長いひげをたくわえた優し気な瞳をした年老いたモンスターだった。
「これはかなり危険な任務になるだろう。彼は君の庇護下にあると認識していたが、それでもよいのだな?」
「ああ、こいつは力を求めてる。なら自分で自分を守れるようになってもらうだけだ」
そうか、というと彼は椅子に深く腰を掛け愉快そうに笑うと挙手をした。
「私は彼に賛成する」
彼の発言に賛同するように他のボスモンスター達も何人かが挙手をし、それが過半数を超えるとガットはふんと鼻を鳴らし、採択ハンマーを打ち鳴らした。
「ディアナ公国への任は彼に任命することで可決されました」
その言葉と共に会議は解散され、ボスモンスター達は立ち上がり退散していった。僕は老狼のボスモンスターに一礼をすると、彼はにこやかに頷き、僕に耳打ちした。
「彼にここまでさせる者は初めて見ました、期待していますよ」
「ありがとうございます」
老狼は僕のその言葉に微笑み肩を叩くと去っていった。付き人の狼獣人の男の刺すような視線も僕は真っすぐに受け止めて視線を投げ返す。
自分を推してくれた以上僕がなにかをしでかせば彼に迷惑がかかる事になる、その意識を持てと、狼獣人は目で訴えかけていた。
「さて後はお前次第だ、覚悟はできてるだろうな」
マスターは僕の決意を確認するように僕の顔を見た。
「必ずやり遂げます、僕に任せてよかったってきっと思うはずですよ」
「生意気言いやがる、だがその意気だな」
がんばれよ、そういってマスターは笑った。




