237回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 48:てのひらいっぱいの幸せを(5)
ようやく落ち着いたグレッグだったが、僕が動くたびに背後にぴったりくっついてくる。
「歩いて大丈夫か?俺が抱きかかえようか?」
そう言いながら僕の肩を掴み、心配そうな顔で僕を見るグレッグ、気持ちは凄く嬉しいんだけど圧が凄くて、僕は苦笑いでグレッグの手を撫でる。
リガーがなにかを回収しているのが見えた、ゴブリンが略奪した盗品を拾っているようだ。
「あれ?」
僕は少し疑問に思って彼に声をかけた。
「ねぇリガー」
「に”ゃ”あ”!?」
彼は大声を上げ、全身の毛を逆立て威嚇のポーズをした。
「ごめん驚かせちゃって」
リガーは懐にこそこそと盗品を入れる。職業病のようなものなのだろうか。
「考え事しててにゃ、なんの用だったかにゃ?」
「それだけしか持っていかないの?」
ここにある金品を持てるだけ持っていけば一財産になりそうなのに、リガーはその中の僅かな量しか持っていこうとしていなかった。
僕のその問いにリガーは少し含みのある笑顔をする。
「結局盗品を売りさばくことになるんであんまり持っていくと足がつくしにゃ、それに」
リガーは胸に手を当てて目を細め、なにかの気持ちを飲み込んだ後僕の顔を見る。
「幸せってのは持ちきれる程度が丁度いいのにゃ」
その時の彼の笑顔が何故か悲しくて、僕は口をつぐむ。
「どうかしたかにゃ?」
気のせいだったのか、おどけながら僕の顔を覗き込み、にんまりするリガーはいつもと同じ調子だった。
「思春期って奴かにゃぁ、なんならおじさんがいつでも相談に乗ってやるにゃ」
「え、リガーって年結構行ってるの?」
リガーは見た目が猫だからか年齢が外見でうかがい知れない所があった。
「おいらの普段の渋い言動を見てればわかるにゃろ?」
「いや普段の言動相当幼いと思う……」
「にゃんと!?そうかにゃ?ちょっとショックだにゃぁ」
そうかにゃぁそうかにゃあと頭を傾げて物思いにふける彼を見てるととても大人に見えなくて僕は吹き出してしまう。
「笑うなよにゃー失礼な奴だにゃ。まぁいいにゃ」
そういって彼は荷物を背負う。
「もう行くの?」
「んー、取引相手と約束の時間があるからにゃ。おいらはここで失敬させてもらうにゃ」
それじゃ!と言ってリガーはにこやかに笑うと、尻尾を立てながら軽やかに走り去っていった。お腹をたぷんたぷんさせながら。なんであの体型であんなに速く動けるのか謎である、猫だからだろうか。
「何笑ってるんだよジョッシュ」
グレッグが僕の脇をつく。
「いや、リガーとも少し打ち解けてきたかなって嬉しくて」
去っていく彼の尻尾は高く立てられ先が少しだけ横に折れていた。猫の尻尾は猫の感情をあらわす、この世界でも尻尾の形の意味が同じなのであれば、リガーのその尻尾の意味は友達を表す形だった。




