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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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236回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 47:てのひらいっぱいの幸せを(4)

 僕が目を開くとそこは見知らぬ朽ち果てたどこかの都市のように見えた。黒い肉塊のようないくつもの影が蠢いて、互いを食い合い、混ざり合い、弾けて飛散した肉塊がまた新しい肉塊として浮遊し始める。

 ポーチから光が溢れている事に気づき、僕は光を放っている琥珀のダガーを取り出すと、それを松明代わりに歩き始めた。

「グレッグ!リガー!!」

 二人を呼んでも返事がない。

「無事ならいいんだけど……」

 僕は二人を何度も呼びながらその朽ち果てた都市を歩いた。


「ジョッシュ、何だか嫌な感じがする。オブジェクトに似たなにか別のものの気配だ」

 パットの声がして、あたりを見回すと。瓦礫の山の中の玉座のような場所に座っている、漆黒の鎧を着た騎士の姿があった。

「人がいる!」

 瓦礫の山を登りながら僕は彼に声をかけた。

「あの、すみません」

 騎士は床に突き立てた剣を握りしめたまま眠っているようにも見えた、その表情は兜でうかがい知れない。もしかして死んでいるのか?僕がそう思いかけた時、彼はゆっくり首を上げて僕を見た。

「崩界に客人とは珍しいな」

 深く重い静かな声で男はそう言った。

「ゴブリンの巣にいたんですが、ゴブリンに祭壇で寝かされてた女性が爆発して、気がついたらここにいたんです」

「不安定なオブジェクトの暴走で発生する爆発に巻きこまれたか。ここは混沌に飲まれた世界の底、崩界よ。少年」

「貴方も爆発に巻きこまれたんですか?」

「いや儂は少し事情が複雑でね。ここである男を待っているのだ」

「あの剣がこの空間を固定してるみたいだ」

 パットが僕に耳打ちし、琥珀のダガーの光が少し強くなる。その様子を見て男は小さく笑った。

「儂の名はガルズ、そしてこの剣は儂の死の具現、ニュクスといったか。儂を殺せる者をここに連れてくる道具よ」

「パットの声が聞こえるんですか?」

「ああ、意志を持つオブジェクトとは変わった物を持っているな。君は名を何という?」

「僕はジョシュア。仲間からはジョッシュって呼ばれてます」

 何気ない会話をしているだけなのに圧倒されそうな存在感とプレッシャーを男は放っていた。彼がそうすることを望んでいるのではなく、そこに存在するだけで他者に本能的な脅威を与えてしまう存在。素人同然の僕でもわかる、彼は強い。次元の違う底知れない力を秘めた存在であるという事を。


「どうやらコイツが人違いをして君をここに引き寄せてしまったようだ。オブジェクトとニュクスはとても近しい存在だ、それに君も儂とやりあえる力があるらしい」

「僕には何の力もありませんよ」

「自覚がないのだろう、どうだ、一戦交えてみるか」

「あっという間に死んじゃいそうなので遠慮しておきます」

「くくくっ、謙虚な事だ。それでは儂は今しばらくあやつを待つとしよう」

 そういって再び眠るように頭を下げ体を脱力させた彼に、僕は慌てて訪ねる。

「ここに大男と小太りな男が来ませんでしたか?僕と一緒にここに飛ばされてきたはずなんです」

「ああ、その者達ならば竜鱗の力でこの世界に取り込まれるのを逃れているはずだ」

「竜鱗?それがあれば僕も戻れるんでしょうか」

 ガルズは僕の胸に指を差す。

「ギルドプレート?これが竜鱗なんですか?」

 そう訪ねた瞬間プレートが強烈な光を放ち、僕は体を背後に猛烈な速度で引かれる感覚に襲われた。


「ジョッシュ!目を覚ませ!!」

 グレッグの声がして目を覚ますと、そこには僕の顔をのぞき込みながら涙目になっているグレッグと、ほっと一安心した様子のリガーの姿があった。

「グレッグ、リガー。僕は……?」

「ああジョッシュ、よかった」

 グレッグに抱きしめられその力の強さに全身の骨が軋む音がした。

「グレッ、苦しい……しんじゃうしんじゃう」

 僕らから少し距離を離した場所にドルフの姿が見えた、彼はどこかバツが悪そうな表情で耳をふせしょんぼりしていた。

「なにがあったの?」

「お前さんがおいら達の名前を叫びながら近づいてきたと思ったら、突然倒れてぴくりとも動かなくなったんだにゃ」

 泣きながら嗚咽にまみれて何をいってるのかわからないグレッグの言葉を翻訳するかのように、リガーがやれやれといった様子で僕にそう言った。


 夢だったのか?祭壇にいたはずの女の子の姿はなく血の海になっている、途中までの記憶はたしかなようだ。あの空間、そしてガルズとニュクスの存在。彼の言葉が本当なら、ギルドプレートの事を竜鱗と呼んでいたのも気にかかった。

 だけど今は自分が目を覚まして豪快に男泣きしているグレッグの事をなだめることに専念しようと僕は思った。


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