235回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 46:てのひらいっぱいの幸せを(3)
「へぇあれがゴブリンの巣か」
僕が茂みから身を乗り出し朽ちた遺跡を見てそういうと、大きな虎獣人の手が僕の頭を押さえつけた。
「見つかるぞ、これだから素人は困る。隊長に迷惑が掛かったらどうするつもりだ」
鼻息荒くぷんすこと虎獣人のドルフはそういうと、背にかけていた弓を手に取り先端に爆薬のついた矢をつがえる。
「そんなに怒らなくたっていいじゃんか」
ぶつくさ文句をいいながら僕は、今度は怒られないようドルフの隠れ方を真似しつつ様子を伺う。遺跡の中心には生贄の祭壇があり、そこに気を失った女の子が寝かされていた、彼女の横には黒い肉塊のようなものが見える。
遺跡にいる監視のゴブリンの死角を縫うようにグレッグが遺跡の傍の川岸から迫り、相変わらずその丸々とした体とは不釣り合いな身軽さで猫獣人の盗賊であるリガーが遺跡の背後から建物にとりつき、スルスルと石柱を登って見張りのゴブリンの首を背後から掻き切って寝かせた。
その様子を確認したドルフは即座に弓を放ち、それがもう一人高所にいたゴブリンに命中して爆発。巣にいたゴブリンの注意がそちらに向いた瞬間、ドルフが遺跡に突入し血風が吹き荒れる。
「すご……」
グレッグが進むたびにゴブリンの首や四肢が飛び散り、ばらばらになった血と内臓と死体が赤い絨毯を作るように続いていく。そのあまりの光景に僕は息を飲む。
「怖いだろ隊長は」
そう言いながらドルフはグレッグの死角を狙って襲い掛かるゴブリンを狙撃していく。その顔はドヤ顔である。
「あれがあの人の世界だ、あの人と一緒に生きるって事はあれに参加するって事だぜ」
お前にそれができるか?挑戦的な目をしながらドルフは僕にそういった。
「できらぁ!!」
「ちょっあ、おい!!」
僕はその言葉に思わずカチンとなり茂みを飛び出し遺跡に駆け出して行った。
「馬鹿野郎、お前が行っても邪魔になるだけだ!」
別にムキになったわけじゃない、嫌な予感がしただけだ。祭壇の女の子の黒い肉塊が肥大化して、今では一人の大人の人間のような形を形成していた。彼女は突然目を開き僕を見ると口元を釣り上げて笑う。
「グレッグ!リガー!!すぐにそこから離れて!」
僕が叫ぶのと同時に、彼女の体が膨張して破裂し、その体の中から光を飲み込む黒い波動が迸り僕らを飲み込んでいった。




