234回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 45:てのひらいっぱいの幸せを(2)
寝台にロープで縛りつけられただひたすらに許しを請う娘の姿があった。泣きじゃくり腫れあがった顔で彼女はその体に触れる教授に目を見開いて話しかけ続ける。
「あーあー、貴女は勘違いをしていますよ。私は今からとても貴女にとって良い事をするのですから、ええ。そう、貴女は勘違いしている、自分自身に対する理解が間違っているのです。ああ、ああ、それはとても残念です、そうは思いませんか?」
そう言いながら教授は娘の涙を手で拭う、その所作は気品に満ちて優雅さすらある。
「それをね、今から矯正してさしあげる」
教授のはめた指輪が光りはじめ、彼は額から彼女の脳内へと、皮膚も骨もすり抜け、その指を侵入させていく。娘は絶叫する、獣のような咆哮に変わっていく。
「あーあー、いいんですよ?そんなに喜ばなくても。ええ、賛辞なんてそんな、私は当然のことをしているだけですから」
どうやら教授にはそれが自らへの称賛と感謝の言葉に聞こえるらしく、うっとりと恍惚とした表情を浮かべ、彼は彼女の脳を粘土でもいじるかのようにもてあそぶ。
「真心を込めて処置をしますから、きっと貴女も美しく咲くはずです。来たるべく新しい時代を彩る花に!光悦の極みでございましょう?そうですとも、私もとても楽しみにしていますよ」
娘の横にブクブクと泡を立てながら、黒い肉塊が産まれ産声を上げる。
彼の傍でそれを見ていた全身を漆黒の甲冑に身を包んだ黒騎士の男がいる。彼は教授の望みが相互理解だと説明を受けた事を思い返していた。人の相互理解など結局はエゴの押し付け合いでしかないのだ、そんなものより契約上の関係の方が気が楽でいい。そう彼は考えていた。
それに生きるうえで目的が一つしかない彼にとって、他人とかわす言葉など必要とは思えず、もう他人と言葉を交わさなくなって久しくなっていた。
彼はただ粛々と契約に従い役目を果たす。たとえ目の前で何が行われようとも、彼は主の命令を待つのみであった。




