233回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 44:てのひらいっぱいの幸せを(1)
かつて私は父を亡くし星明りすらない真っ暗な道を、誰かに手を引かれて走り続けていた。
「もういい」
私は自分の手を引く男にそういった。私は疲れていた、ひとりぼっちでこんな世界で生きていくくらいなら。
「ここで終わりにしたい」
そういった瞬間躓いて転びそうになった私を、男は救い上げ抱きかかえて、毛むくじゃらの手で僕の手を握りしめながら、その男は叫んだ。
「生きろ!」
そこから幾度となく男は私に同じことを叫び続けた。まるで止まってしまった私の心臓をその言葉で動かそうとしているかのように。自然と涙が溢れてきた、想いが言葉にならない、不安が嗚咽となって漏れ出してくる。男は私のそのすべての思いを受け止めるかのように、強く私を抱きしめ、叫び続けた。
雲の隙間から現れた月の光が男の顔をかすかに照らす、猫の顔をしたその男の名はリガー。私の父のたった一人の親友。裏切り者、私の父を殺した男。
ああ、それなのに、私は。彼の想いが嬉しくて、悔しくて、泣くしかできない無力な子供だった私は。その世界で生きるための理由を、たった一つしか見出すことができなかった。いつか必ずこの男を殺す、その日からそれが私の生きる理由になった。




