230回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 41:追憶の森(36)
夜も更けて、窓から差し込む微かな星明りを頼りに、僕はグレッグの体を見る。
近くで見てみるとグレッグの体にはいくつもの傷があった。毛皮の中に埋もれて隠れている古傷も含めるといくつあるのかわからないほどに。僕はグレッグの傷を一つ一つたどって、その数を数えていく。その数だけ彼は痛みと戦ってきた、きっと心にもたくさんの傷を負っている。それなのに優しい彼の気持ちを思うと、僕は胸が締め付けられる気持ちになった。
「グレッグ、もう寝ちゃった?」
彼は目を閉じたまま、胸を上下させて呼吸している。鼓動の音が大きくて、そのぬくもりは温かい。
「んー?どうしたジョッシュ」
眠そうに目を閉じたまま彼はそういうと、僕の姿を確認するように僕の背中をさする。
「僕はなにがあってもグレッグの味方だよ、ずっと君の傍にいたい」
グレッグは少し目を開けると僕を見つめる、その視線は真剣で、きっとまた彼は僕の事を優先して考えているんだとわかった。
「でもよ、いいのか?俺に恨みを持ってる奴は多いんだぜ」
僕が思っていた通りの事を彼は言った、痛々しいほどに彼は優しい。だから僕は。
「平気だよ、むしろだからこそ一緒にいようって決めたの。君が君らしく生きていくために、僕は君の障害になるもの全てから君を守る」
僕の持てる全ての力で、僕は彼を守りたいと心から思う。グレッグは小さな声で笑って、子供をあやすように僕の頭をわしわしと撫でる。
「お前弱っちいじゃん、無理だよ」
ああ、グレッグは知らないんだ。僕はまた胸が痛む。
「友達が一人いるだけで、大概に事は乗り越えられるものなんだよ。僕は君のそういう存在でいたいって事」
僕のその言葉にグレッグは少しの間無言になり、僕の背中を優しく叩き続ける。
「ズルい」
「え?」
グレッグは不貞腐れるような目で僕を見ていた。
「ズルいぞ、お前ばっかり俺を守るなんて。俺にもお前を守らせろ、どんな敵からも、この世界の全てからだって、俺はお前を守って見せる」
俺なんかの友達になってくれた大切なお前を。そういってグレッグはまた僕を強く抱きしめた。彼の鼓動の音が大きくなった気がする、僕はなんだか嬉しくて泣きそうな気持になった。
「ふふっ、ありがとうグレッグ。君がそう言ってくれると頼もしいよ」
「任せろ」
グレッグは誇らしげに鼻息荒くそういった。こうしてずっと一緒に暮らしていけたら、僕は心の中でそう呟きながら、眠りについた。




