229回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 40:追憶の森(35)
グレッグの家の扉を前にして僕は少しドキドキしていた。まだ家のない僕を彼が泊めてくれるというのだ。
「お邪魔します!」
「なにかしこまってんだよ、ちょっと散らかってるけど勘弁な」
そういって扉を開けたグレッグの後に続いて家に入る。
「すっごい」
「ん?」
「すごい散らかってる」
「言うなって」
グレッグは苦笑いして頭をかいている。不潔ではないのだけど物があちらこちらに散乱していて、彼の家の中はまるで物取りにも入られたようなありさまだった。体が大柄なグレッグの家だけあって全体的に空間が広く取られていて、彼の寝るベッドも僕が寝ると大量に空間が余るほどの大きさだった。
「ねぇねぇグレッグ、ちょっとベッドで寝てみていい?」
「構わねえよ」
プールに飛び込むように僕はグレッグのベッドに飛び込んでみた。彼は寝心地にこだわるタイプらしく、ベッドに使われている布団がフカフカで気持ちがいい。手足を伸ばしてもまだ余裕のあるベッドの贅沢な感じは何とも言えない。
「ふあ……少し眠くなってきたな……」
寝転がっていたら眠気が襲ってきて、僕は布団をかぶる。グレッグの匂いがしてなんだか落ち着く。意識が落ちそうになった瞬間、なにかが布団に落ちてきて、その衝撃で僕の体が少し浮き上がって目が覚めた。
僕の隣にグレッグが寝ころんでいた。
「あ、ごめん。僕ソファーで寝るね」
「いい、このままで」
「え?」
だから。そういってグレッグは僕のかぶっていた布団に潜り込み、僕の体をぎゅっと抱きしめた。
「このままでいい、嫌か?」
僕は突然の事に少し返答に困りながらも、彼の気持ちが嬉しくなった。
「グレッグがいいなら僕もこれでいいよ」
グレッグは少し赤い顔をしながら、無邪気な笑みを浮かべる。
「俺は角があるから頭は横向けて寝てるんだけどよ、お前の方向いててもいいか?」
そういって彼は僕を見つめている。それは明らかに僕の方を向いてというよりも、僕を見ていてもいいかという意味に聞こえて、僕はなんだか恥ずかしくなってしまった。
「いいよ、だけど代わりに」
僕はグレッグのお腹のあたりを抱きしめ、照れ隠しに彼の首に頬をうずめた。
「僕もこうしていたい」
「おう」
そういってグレッグは僕の頭を撫でてくれた。




