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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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227回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 38:追憶の森(33)

 バーベキュー会場は街の中の大広場を使って行われている。コロシアムのような構造、僕の感覚で言うと石造りの陸上競技場といった感じの場所で、ここで貴族の偉い人の演説や、楽団のコンサートが行われたり、依頼があればこうしてバーベキュー会場としても借りることができるとの事だった。

 僕とパットは人ごみを抜け、客席を登っていくと中ほどの高さの場所で腰を下ろす。

「人が沢山いるね」

「ギルドのモンスター達からしても砦側のモンスターは厄介者だったらしくて、ただ酒ただ飯とセットで騒ぎに来てるんだってグレッグが言ってた」

「彼と打ち解けたんだ、すっかり友達だね」

 そういうパットに僕は笑顔で頷いて見せる。パットは僕を見て微笑むと、再びバーベキュー会場の様子を眺め、少しの間をおいて呟く。

「ユウマは僕が怖くないのかい?」

 たしかにパットの正体は知れない、彼がモンスターなのかどうかすら僕にはわからない。それに今の彼は僕以外の誰にも見えていないようだった。だけど僕は。

「君とも友達になりたいって、そう思ってる」

 素直に思ったままの事を口にすると、パットは困ったように笑う。

「やっぱり君って不思議な人だ」

 そして彼は足元を見つめ、何かを決意したように頷くと真剣な顔をして僕を見た。

「君の見たあの黒い肉塊の事、覚えているかい」

「うん、あれはなんだったんだろ。オブジェクトの力で消すことはできたけど」

 そういった僕に彼は首を横に振る。

「黒い肉塊を認識できたのはオブジェクトの力じゃない、君自身の力によるものだ。それにあれを消した光も君の中の特性を僕がそれを仲介して引き出したに過ぎない」

「僕の力?」

「そう、君にはこの世界にやってきたときに授けられたスキルがある。ブラザーフット、それはどんな相手とも友達になれる能力だ。問題はその特性、友達になる上で障害となるものに対して、それがどんなものであろうと君次第で乗り越えられるようにこの世の理を歪める力って事だ」

「それってまるで」

「混沌の力、オブジェクトが持つのと同質の力を君たちアウトサイドからの来訪者は持っている。だからダガーを触媒にして僕がそれを表に引きずり出すことができた」

 パットはそういうと目の前に手を差し出し、握りこぶしを作る。それに呼応するように琥珀のダガーが淡い光を放って、ゆっくりとその光は消えた。

「君が見ることができる黒い肉塊、そしてそれを滅ぼした力。あれは心を縛る呪いを解く世界で君にしか使えない解呪魔法ディスペルマジックだ。かけられた呪いよりも強い意志の力が君にあれば、同じように他の呪いだって消すことができるだろう」

 皮肉だな、そういってパットは自分の拳を見つめ、開いた手の中の何かを悲しそうな瞳で見ていた。それは過ぎ去った過去なのか、それとも今も彼を縛るなにかのしがらみなのか。

「僕でよければ君の力になるよ」

 僕は自然とパットにそう声をかけた。

「君にかけられた呪いも、僕がいつか解いてみせる」

 彼はそういった僕に優しく微笑み、空を見上げた。僕も彼に倣って空を見る、満天の星空だ、星座はまるで僕の元居た世界とは違うのに、どこか懐かしい気持ちにさせる。そんな暖かな無数の光の中に僕らはいた。

「君ならこの世界にかけられたいくつもの呪いを解けるかもしれない。そして世界がそれを求めた時、君はきっと勇者と呼ばれるようになるだろう。それがもたらす結果が君にとって光のある道である事を祈ってる」

「パット、僕は」

 彼の方を見るともうそこにはパットの姿はなくなっていた。僕は急に不安になり琥珀のダガーがポーチの中にあるか確認し、それが確かにそこにあるのがわかると、安堵の溜息をついた。彼とのつながりはまだここにある。

「僕はね、借りは必ず返す主義なんだよ」

 琥珀のダガーを握りしめて、僕はパットに届きますようにと祈りながらそう呟く。いつかきっと、彼を心から笑わせてみせる。僕はそう決心し、果てしなく広がる星の海を眺めた。


挿絵(By みてみん)

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