223回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 34:追憶の森(29)
「ううー怖い」
僕は耐えきれずグレッグの影に隠れる、僕らの視線の先にはメリンダがもの凄い形相で睨みながら後をつけてきていた。
「気に入られたんじゃないのか?」
「それにしては殺気がありすぎるよぉ」
冗談めかしてそういうグレッグに僕はおずおずと反論する。メリンダだけならまだいいのだ、彼女の周囲には屈強な戦士達が集団となって同行し、僕が視線を向けるたびにボディーランゲージで殺すとアピールし続けてきている。
「そういえばさっきメリンダさんのターバンがほどけて耳が見えたんだけど」
「よぉお二人さん」
僕とグレッグの間に割り込むようにマスターが声をかけ、僕の顔をのぞき込むと口に指を当てて黙っているように指示を出す。
「あ、そういうことか」
僕は少し残念に思った、人間の姿に近いエルフなら、人間の中でも一緒に生活できているのかとそう思ったから。周囲を見ると人間の中に妖精を引き連れたエルフが何人が紛れ込んでいた、スパイのようなものなのだろうか。しかし皆メリンダのようにターバンで耳を隠すという事まではしていない、彼女だけどこかコンプレックスを抱えているようにも思えた。
「ちーとばかし話があるんだけどよ、いいかグレッグ」
そう言ったマスターの顔を見て、グレッグは真剣な顔で頷く。
「なにかあったの?」
「新米のお前の事が心配なんだと、お前には俺がいれば大丈夫って話をちょっとしてこなきゃならなくてな、少し行ってくるわ」
グレッグはそう言って僕の肩をギュッと抱きしめる。その手は温かくて、毛皮はふかふかで気持ちいい。彼の匂いを嗅いでいると少し気持ちがほわほわしてくる。
「あとでな、ジョッシュ」
「うん、わかったよグレッグ」
少し惚けながらグレッグを見送った後に僕ははっと我に返り、後ろを振り向く。
そこには一人になった僕を嬉しそうに見据えながら、武器を抜き身にしていくメリンダの一団の姿が。僕は脱兎の如く逃げ出した。
僕らの追いかけっこを周囲は催し物のように笑ってみている、いやいやいやこっちは生き死にかかってますからね!?真剣ですよ!?
「グレッグ早く戻ってきてー!!」
僕の叫びは空しく空にこだまするのだった。




