220回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 31:追憶の森(26)
「おお?」
グレッグはそこで酒場にいたある人物を見て声を上げる。そこには砦にいた虎獣人のドルフの姿があったからだ。彼は僕らに気づくとバツの悪そうな顔をしてこちらにやってきた。
「お前何でこんな所にいるんだよ、砦はどうしたんだ」
「彼らの所は辞めて、こっちで働く事にしました」
「なん、マジか」
グレッグは驚きそうになる自分を押さえ、頬をかいて平静を装ってドルフの顔を見る。
「お前はそれでいいのか?」
「俺思い出したんです、俺の居場所はいつも隊長の隣だったって」
そういってドルフは心酔した様子でグレッグを見た。僕はついグレッグに小声で耳打ちする。
「強く殴りすぎたんじゃない?」
「魔王軍にいた時はこんな感じだったんだよ、だから元通りって言えば元通りなんだが」
僕らのひそひそ話が聞こえたかどうかはともかく、ドルフは一つ咳払いをして座った目をして僕を凝視する。
「お前のいる場所は本来俺の居場所だ」
「なんだと、渡さないぞ!」
僕はグレッグの腕にしがみつく、するとドルフも負けじとグレッグに腕を組んだ。
「どういう状況だこれは」
頭を抱えることも出来ずグレッグは呆然と天を仰ぐ。
「聞いたところ隊長は新米のお前を見かねて面倒をみているそうだな。ならお前が一人前になれば隊長がお前の世話をする必要もなくなるわけだ」
そう言ってドルフは想いをはせるように開いた手を胸に当てて目を閉じる。
「その後は俺たちはまた昔と同じに」
そう言って同意を求めるようにドルフはグレッグを見上げる。
「隊長と部下の関係でしかなかったはずだぞ?」
うわずった声でグレッグはたじろいでいる。一切それを気にしない様子でドルフは満足げに鼻息荒く僕をドヤ顔で見る。
「見ろこの絆を、昨日今日出会ったお前とは違うんだ俺たちの関係は」
「くっ一日の長……まさかこんな所に意外な敵が」
僕は思わずグレッグの腕を力一杯抱きしめる。
「お前ら少し冷静にだな」
「グレッグは黙ってて!」「隊長は黙っていてください!」
僕とドルフは同時にそう叫びながらお互いに歯をむき出しにして睨み合う。
「そういうわけでお前が一人前になるまで隊長と一緒に俺が鍛えてやる、ありがたく思え」
「ぐぬぬ、余計なお世話だよ!」
「まさかそんな理由でギルドに鞍替えしたのか?」
「当然です、隊長は俺の全てですから」
グレッグが自分に声をかけてくれるのがそんなに嬉しいのか、一言一言にドルフはうっとりした表情を浮かべる。これだけ好きだったからいろんな事情が重なってあそこまで反転してしまったのかも知れない。
グレッグは困りながらもどこか嬉しそうだし尻尾まで振っちゃってるし。彼が喜んでいるのは僕も嬉しいんだけれど……。結局ドルフと僕はマスターに介入されるまで小一時間ほどその状態のままお互いを牽制しあったのだった。




