219回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 30:追憶の森(25)
誰かと関わること、自分の時間をその人と過ごしていく事。それは信じる事だ、そう僕は思う。もしこの先どんな結末になったとしても、この人となら納得して未来に向かって歩いて行ける。そう信じられる限り、僕はきっとその人と過ごした日々を後悔することはない。
「どうしたジョッシュ、ぼーっとして」
僕の額をグレッグが触る。彼の肉球は少しひんやりしていた。
「少し熱いな、具合は悪くないか?」
違うよ。僕はそう心の中でつぶやく。
「大丈夫」
「そうか、あんまり無理するなよな」
心配そうな彼に僕は笑って見せた。知らないんだ彼は、こういう時人がなにを考えてるのか。熱に浮かされるような気持ちを、誰かから向けられたことがないのだろう。
僕は彼を信じてる。これからもそうありたいと願っている。最初に出会った時からずっと、僕を見守ってくれたグレッグ。彼の力になりたい。
「ずっと傍にいるよ」
そうする事で彼の欠けたなにかになれるなら。
「おう」
グレッグは少し戸惑いながらそういうと、照れ隠しのつもりか僕の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
前の世界では彼のような人には出会えなかった、彼は僕にとってずっと探していた誰かだ、僕に欠けた何かを彼は持っている。だから僕は心から彼にとっての何かになりたいと願うんだ。たとえそのためにどんな結末を迎えたとしても、彼のためにした事なら僕は悔いはないと、そう信じられる人だと。僕はグレッグに対してそう思う。
「君は僕と少し似てるんだ」
心が口をついて声になる、グレッグは僕の心にそっと触れるように口を開く。
「見た目は似ても似つかないけどなぁ」
そっと優しく気持ちを受け止めて、冗談交じりに気持ちを汲んでくれる。彼と会話する一言一言が僕には心地がよかった。
「無茶するとことか、負けん気強いとことか?」
「あと少しだけ寂しがりなとことかね」
「おー?お前寂しがりなのか?」
仕方ねぇなあ、そういってグレッグは僕の肩を抱いた。まんざらではない気分といった表情で、彼の尻尾もゆったりと左右に振られている。
「ありがとうグレッグ」
本当はずっと寂しかったのは僕の方だったのかもしれない。ここにきてそう気づいた僕は、なんだか恥ずかしくなって彼から目を背ける。グレッグが子供をあやすように優しく肩を幾度か叩いた。
二人でこれからもずっと一緒にいたい、心から彼の事をそう思える。
そして僕らは再び闇ギルドのある酒場へとたどり着いた。




