218回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 29:追憶の森(24)
街の住人に道を聞きながら鍛冶屋に向かうと、グレッグが店の中でなにかの包みを二つ受け取っているのが見えた。
グレッグは匂いを嗅ぎ全身を毛羽立たせ物陰に隠れて様子をうかがう。犬みたいで可愛いなと思いながらも僕は彼に声をかけた。
「グレッグ、傷は大丈夫なの?」
「あー、見つかっちまったか」
頭をかきながら出てきた彼はじっと僕を見る、その視線がなんだか温かい。
「治療の途中で抜け出すからボーディが困ってたよ」
「俺は他人より丈夫だからな、大袈裟なんだよったく。もしかして心配してきてくれたのか?」
僕は苦笑しながら頷く、グレッグは自分の頭をなでながらむず痒そうな顔をして笑った。しかし、すぐにその表情が少し曇る。
「マスターの野郎から俺の前の話、聞いたんだろ」
「え、知らないよ」
「察しはついてるから誤魔化さなくったっていい、あいつはお節介な奴だからな。俺の事幻滅したか?同情して俺を助けに来てくれたのか」
そう尋ねながらグレッグは耳を伏せ尻尾を垂らして力なく左右にそれを振る。
「逆だよグレッグ、僕は昔の事を知って君がもっと好きになった。大好きになった。だから君ともっと一緒にいたくて、気が付いたら行動してた」
僕はグレッグの手を握り、両手で包み込む。
「僕は君と友達になりたい、そう思ったんだ」
「な、なんか照れくせえな」
グレッグは手を引っ込めると背中を向ける。
「ケツが痒くなること言うなよな」
彼はそういいながら肩越しに赤らんだ顔で僕を見る、言葉とは裏腹に尻尾も大きく振られて嬉しそうだった。はにかむグレッグを見ていると、僕も自然と顔がほころんでしまう。そんな僕の様子を見て、グレッグは意を決したように頷くと、小脇に抱えていた包みの一つを僕に手渡した。
「くれるの?」
「開けてみな」
包みを開くとそこには山刀があった、小太刀をナイフじみたようなごつい形で作ったような、かっこいい奴だ。
「わぁ、かっこいい!ありがとうグレッグ」
へへへ、と笑いながらグレッグは自分の包みも開いて見せる。
「お揃いだぁ」
ハートマークが出そうな笑顔をしているのが自分でもわかる、そんな僕にグレッグは心底満足そうな顔をする。
「ほんとはお前を驚かせようと思って内緒にしたかったんだけどよ、それにお前まだろくな武器持ってないし使い方も知らないだろ?同じもの持ってた方が使い方が教えやすいからな」
「うああ、グレッグ大好き!」
そういって彼に抱き着くと、彼の体の毛皮はふかふかで、お日様みたいないい匂いがして気持ちよかった。尻尾が空を裂くような猛烈な音をさせて振られ始める。
「や、やめろぉ。人目があるだろ、恥ずかしいぞジョッシュ」
もーっと言いながら彼は僕の頭を撫でてくれる。
彼を一人ぼっちにしなくてすんでよかった、グレッグと一緒に帰ってこられて本当に良かった。僕は心からそう思いながら、しばらくグレッグのもふもふと温もりを堪能したのだった。




