217回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 28:追憶の森(23)
気がつくと僕は白い天井を見上げていた。
「どこだここ……」
街に近づいて検問を通る準備をしていた時に、グレッグが急に倒れて、それから僕も体になにかの針が刺さって意識がなくなったのをぼんやりと思い出す。
「病院ですよ、おはようございます。あなた方には傷の手当てが必要でしたから」
そう言って病室に白衣を着て眼鏡をつけたリザードマンの男が入ってきた。僕はその顔を見て目を疑う。
「ボーディ?」
「はい、そうですがなにか?」
彼はこともなげにそう言いながら眼鏡をかけ直し、カルテを確認している。どう見てもインテリな雰囲気で僕の知っている彼とはまるで違っていた。
「先生、グレッグさんがいません」
いつものことを報告するような落ち着いた声がした。ボーディの背後に白衣姿の金色の長髪、妖艶なナイスバディを持った眼鏡姿の女性が現れる。
「またですか、よほど彼はじっとしているのが苦手とみえる」
やれやれと呟きながらボーディは彼女にカルテを手渡す。
「経過は良好ですから、点滴をしたらジョッシュさんは帰っていただいて結構ですよ」
そういわれて僕は自分が大けがを負っていたことを思い出した、薬草を食べて痛みは消えていたが完全に傷が癒えるわけではないらしい。
「あの……僕今手持ちがないんですけど」
おずおずとそう尋ねる僕にボーディは優しく微笑む。
「ここでの治療費は全額ギルド負担ですから、お支払いは結構です」
ボーディが出て行ったあと、すぐにでもグレッグを探しに行きたい、僕はそう思った。
「連れが心配なので点滴いりません」
「ダメです」
即答でそう答えると、看護師のような女性は僕をベッドに転がして、息もつかさぬ速度で点滴の針を腕につないでしまった。彼女の名札にはロザリアと書かれていた。
仕方なく僕はされるがまま窓の外を見る。この建物は街のスラム地区の中に建てられた場所のようだった。外の喧騒とは隔絶されたような清潔な空間、外では漫画の悪役のような性格なのにここでは医者然としたインテリなボーディ。
「あの、彼っていつもあんな感じなんですか?」
「先生の事ですか?ええ、そうですね。なにか変わったことでも」
「外で会った時と大分雰囲気が違うなと思って」
「彼に薬を投与しすぎたかもしれませんね」
ん?なんだかおかしな事を言い始めたぞ。そう僕は思った。
「薬を投与、病気なんですか?」
「いいえ、新薬の治験です。必要ですから」
ロザリアはボーディを薬の実験台にしていて、それで彼の人格に影響が出ている?
なんだか怖いことを聞いたような気がして、僕はすっと目をそらす。されるわけはないとはわかっていながらも自分も実験台にされそうで少し怖かった。
「グレッグさんは恐らく鍛冶師の所に行っていると思います、治療が済んだら行ってみてあげてください」
「あ、ありがとうございます」
ロザリアは笑顔で頷く。その手にはカルテが二つ。一つのカルテにはボーディの名前が書いてあったが僕はなにも見なかったことにした。




