214回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 25:追憶の森(20)
「苦っエグぅっ!!」
僕はグレッグに口にねじ込まれた薬草を一噛みすると、その強烈さに思わずもごもごと叫んでしまった。
「そうか?こんなもんだぞ」
「灰汁の取ってないほうれん草生でかじってるみたいだよぉお」
一噛みごとに体の傷の痛みが消えていくので飲み下すわけにもいかず、これは軽い拷問だなと率直に思った。
ドルフは相変わらず僕らと少し距離を置いた場所に座り、地面を眺めていた。僕は薬草を片手に近づく。
「酷い味だけど食べなよ」
さっきまであんなに腹を立てていた相手だけど、今は少しだけ気の毒に思えた。ドルフは俯いたまま呟く。
「なぜ俺を助けた、殺すつもりだったんじゃないのか」
「君が死んだら、僕の大切な人が悲しむからね」
その言葉にドルフは耳を伏せ悲しそうな顔をした。もしかすると彼もあの黒い肉塊に操られているだけだったのかもしれない、そう思うと不思議と彼に対して怒りはもう感じなくなっていた。
ドルフは僕の手から薬草を受け取ると、僕の顔を見た。
「俺はお前に負けた、煮るなり焼くなり好きにしろ」
えっ好きにして良いの?もふもふしたりあんなことやこんなことしてもいいの?と思いかけ震えたが、僕は自重し拳を握ると彼の胸を軽く殴る。
「シンプルに行こう、今君が誰に何をしたいと思ってるのか、それを素直に行動に移してくれたら、僕は君を許すよ」
その言葉にドルフは目を丸くし、口をつぐむと、僕の後ろから様子を見ていたグレッグを見て立ち上がる。
「なんだよ」
憮然とした様子でそういうグレッグにドルフは歩み寄り、目を泳がせ、全身の毛をそばだたせ、垂らした尻尾を思案するようにゆっくり横に振った。
「隊長……俺は」
拳を握りしめ、顔を上げてグレッグを真っすぐに見つめるドルフ。
「俺はあんたに取り返しのつかないことをした。許してほしいなんて言わない、言える資格なんて俺にはない。だけど申し訳なかった、今は心からそう思ってる。それだけはあんたに言っておきたかった」
グレッグは息を小さく吐くと、優しい顔でドルフの肩に手を置き、振りかぶると彼の顔面を思い切り殴りつけた。
「ええっ!?」
思わずそう叫び唖然としている僕とリガーの間を、ドルフは空中できりもみ回転しながら吹っ飛び、瓦礫をその体で吹き飛ばしながら半壊した壁に張り付けのような形でめり込み、失神して白目を剥き泡を吹きながら痙攣しはじめた。
「これでおあいこだ!」
そういってグレッグは豪快に笑った。




