211回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 22:追憶の森(17)
闇の中で僕はドルフの声を聴いた。
「グレッグ隊長は俺の憧れだった。どんな苦境に立たされても豪快に笑い飛ばし、皆を鼓舞し導く彼のようにいつかなりたいと思っていた」
「それがいつからだろう、俺は彼を見下すようになった」
軋む音のような重い声が彼に囁く。
『俺は何も間違った事はしていないはずだ、なのになぜ責められる、悪く言われる。誰かのせいにしなくては耐えられない』
その声は咀嚼音のような嫌な音を出しながら言葉を続ける。
『都合のいい誰かがいい、俺が裏切っても許してくれるような、良い奴を選ぼう』
かすかに見えるドルフの目は虚ろに、グレッグの幻影を見る。彼の横の肉塊は一回り大きくなると、ドルフの体に纏わり付きながら、さらに囁きかけた。
『みんなに裏切り者と言われている彼なら、罪を擦り付けてもみんなと同じ事をしただけ、自分も騙されていたと言えるな』
「そうだ……隊長なら、なにもかも隊長のせいにしても許してくれる、俺は傷つかない」
『ドルフ良いことを考えたぞ、罪を隊長の命で贖ってしまおう。隊長を殺して、隊長を裏切ったお前の罪すら闇の中に葬ってしまおう』
ドルフは頭を抱え、悲鳴を上げる。
『大丈夫、みんながそう言っている。お前は悪くない、俺は悪くない』
「俺は、悪くない……」
僕は自分にしか見えない黒い肉塊の正体が少しわかった気がした。その意思を感じ取ったかのように、琥珀のダガーに光が灯る。
肉塊に体の自由を奪われたドルフが、虚ろな目をしたまま僕に襲い掛かってきた。




