207回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 18:追憶の森(13)
「始まった、時計仕掛けないと」
僕は火口の入った鉄のケースを開ける。仕組みはカイロのようになっていて、火口に燻っている火種に息を吹きかけながら麻紐に火をつけた。
「この紐が燃え尽きたらタイムリミット、僕たちはこの砦と一緒にぺちゃんこってわけ」
「命がけすぎだろ!というか俺を殺す気か!!」
「仕方ないよ、なにせ少人数だもの。なるべく場を混乱させなきゃ救出は無理だってリガーが言ってたし」
「リガー?ああ、たしかあの泥棒やるには太り過ぎの猫か。あんなんで使いもんになんのか」
「ああ見えて動けるふくよかさんみたいだよ、今は信じるしかない。立てる?これ薬草、お腹の傷にはこれじゃ心許ないけど」
「おう、魔王軍で戦ってた時に比べりゃどうってこたねぇや」
そう言ってグレッグは僕から薬草をひったくり飲み込むと、牢の鉄格子を蹴り破ってみせた。
「鍵いらなかったね」
苦笑いする僕の頭をグレッグがわしわしと撫で、自分の胸をもう片方の手で作った拳で叩いてみせた。
「お前がこなきゃ出る気にすらならなかったからよ、サンキューな」
さて、そういうとグレッグは壁にかけられた消火斧を手に取り、体の調子を確認するように縦横無尽に振り回す。
蝋燭を切った瞬間に斧を止める、斧の上には火が消える事なく灯り続けた蝋燭が載っていた。
「ここからは俺がお前を守る番だ、いくぞジョッシュ、遅れるなよ」
「足手まといにならないように精一杯頑張ります!」
わざとらしく敬礼する僕にグレッグはにししと笑い、僕らは砦の出口を目指して走り始めた。




